Wolf Ⅱ (ページ29)

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私の鼻腔を“あの”匂いがくすぐると共に、涙が乱暴に拭き取られる。

擦られた肌はジンジンと痛むが、それよりもそのおかげで視界が晴れ、目の前の情景が一気に私の目に入ってきた。

思わず見開いた目の前には、私の会いたくてたまらなかった人。
私の涙で濡れた袖を掴みながら、ただこっちを見つめていた。

拭かれたのにも関わらず、多々溢れる涙を幾度となく彼は拭う。
その度に次へ次へと涙の歯止めが効かなかった。

そして数回彼が拭うと、急にその手が止まる。
なぜ止まったか、彼の顔が涙のせいで見ることが出来ずただその場に固まるだけの私。

そんな私に次の瞬間、何かがかけられる。
その何かが私を包んだ時、懐かしい匂いと温もりが脳内を駆け巡った。

そして...。

『もう...くるな...』

そんな冷たい声も...。

どれほどその声を求め、どれほどこの匂いを探しただろうか。
なんとも言えない感情が這い上がり、今にでも吐き出したい気持ちだった。

そんな中、彼のその声が名残を無くすと、急に人の気配がなくなる。
一瞬の出来事だった...。

私は急いで私にかけられたモノを取り去ると、その勢いで涙が払いのけられた。

開けた瞳に映ったのは、もう誰もいない闇への道。
下を向いて映ったのは、彼が着てたパーカー。
ただ、それだけ。それだけだった...。

でも私の中には彼の低い声がずっと響いた。
そして脳裏には真っ黒な彼が幾度となく現れる。
私は血溜まりを薄めるほど、多くの涙を零したんだ...。

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