Wolf Ⅱ (ページ23)

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北人さんの声はすぅっと私の耳へ入ってきた。

先程までの威圧感のある喋り方ではなく、いつもの優しい北人さんの口調。
そんな優しい雰囲気をまとった北人さんは、私の前にしゃがみ込んだ。

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『心配しないで...？』

“『俺が言っても聞く耳をもってくれなかったんだ。心配しなくていいって...』”

慎の言葉が蘇った。

心配しなくていい、心配しないで。
その言葉はただの強がりに聞こえた。
本当は北人さんのどこかに恐怖があるんだと思う。
掟を破る恐怖、でも北人さんは彼のためならどこまでもやる...。

そうか...、私はこれが怖かった。
無我夢中になって、我の心を分からなくなった北人さんがずっと怖かった。

だから、北人さんの態度が変わった時に強い恐怖を抱いていた...。

・

「ダメです...」

『えっ...？』

「ダメです...！やめなきゃ...」

『何言って...』

「怖いならやめなきゃ...、怖いなら怖いって言わなきゃ...。
私っ、何も出来ないけど、聞くぐらいは出来ますからっ...」

“彼”のことがどうでも良くなったわけじゃない。
生存を確認したくなくなったわけじゃない。
ただ思っただけ、
こんな北人さん、彼は望んでないって...。

・

「私にはっ、必要なんですっ...。北人さんが...。
だからっ...だから」

『...』

・

「っ...！！！」

涙は床にこぼれなくなった...。
その代わり、北人さんのシャツにシミとして滲んだ。

私の背中に手を回して強く抱きしめながら、北人さんは泣いていた。

・