Wolf Ⅱ (ページ20)

今日:85 hit、昨日:32 hit、合計:464,733 hit

＊ページ20

＊

『A』

なかなか始まらない会話に沈黙が重く流れていたが、ふと慎が口を開いた。
突然の呼び掛けに私は驚いて肩を揺らすがそれだけで、顔もあげず声も出さない。
あげれなかった。出せなかった。
それを見た慎はそのまま言葉を続けた。

・

『北人さん、このままじゃ危ないんだ』

私は俯いたまま目を見開く。
慎の言葉の意味が理解できない...。

・

『北人さんがやろうとしてること、番人界へのハッキングは掟に反する。

この裏社会にはね、たくさんのハッカーたちがいる。
だから番人界のコンピュータのハッキングなんてお手のもんなの。
でもそれをやられたらまずいから、掟として禁止してるんだけど...』

「掟...」

私の口からは無意識に言葉が出た。

『まだ完全に番人界へのハッキングって決まったわけじゃないけど、ことの流れを見てるとその可能性が高い。だから...』

「北人さんも、いなくなっちゃう...？」

『俺が言っても聞く耳をもってくれなかったんだ。心配しなくていいって...』

｢止めなきゃいけない...？｣

『Aしかできない。おねがい、北人さんを助けて...？』

慎のその声は今にも泣きそうなほど震えていた。

・

掟、掟、掟
裏社会に絶対的ルールはどれほどまで私達を苦しめるのだろう。

“彼”の安否が完全に確認できてない以上、この世に生きる人の中で大切なのは北人さんと慎だ...。

私は“彼”のために何も出来ず、“彼ら”のためにも何も出来ていない。

Aにしかできない、その言葉は魔法だ。
私にしかできない、そんなものはないって思うけど、
やらなきゃいけないって胸が締め付けられた。

憎みたいけど、姿形がなく憎めない掟
そんなもののせいで北人さんを失いたいくない。

・

「私...、言ってみる」

私は顔を上げ、頷いた。

・