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『おい...』
しばらくすると、再びソファーの元へ来た男
先程とおんなじ、低く冷めた声が聞こえた。
でも耳だけは反応してるが声も出ず、体は動こうとしない。
『ちっ＿＿＿』
そんな私の様子になにか思ったのだろう
男は舌打ちをしてため息をつくと、私の腕を引っ張った。
腕が抜けるんじゃないかってくらいの力で私は起き上がらせられた。
「うっ...」
そしてその瞬間、私の頭からタオルが被せられた。
顔にダイレクトに当たるもんだから、思わず出てしまう声。
突然の出来事に何も出来ないでいると、タオルの上からなにか感覚が...
タオルの匂いが鼻を抜けると共に、力加減を知らない誰かの手がタオルの上から頭に触れた。
先程まで目の前にいたのはあの男だ。
でもタオルのせいで男の顔は見えなかった。
ただ映るのは黒いズボンと少し見える裸の上半身。
視界の男が体の角度を変えると共に、タオルの匂いに混じって香水の匂いがした。
「っ...」
乱暴だけど、冷たいけど
“何故か感じた温もり”
親に頭を拭いてもらったことなんて、
誰かに優しく触れてもらったことなんて...
今までなかった、
.
.
“行動の意味なんて考えてなかった。”
“ただ無意識だった。”
私は目の前にいる男に体を近づけ、ピタリと肌を重ね合わせた。
完全に体重を乗せても、男はそこを動かなかった。
髪を拭く手は尚も動き続ける。
それどころか、うまい具合に頭に手を置き私の体を支えた。
“丁度お腹の部分が私の頬にあたり、冷たい肌に伝わる体温”
触れ合っている人間から、あいつ以外の匂いがする。
ただそれだけで涙が出た。
男の体を濡らしてるなんて知らない。
体に伝わってくる体温が
髪の毛を拭いてくれる手が
悲しかった。
より私を無意味な者として教えてるようだった。
「消えたい...」
死にたいじゃない、いなくなりたかった。
苦しまず、辛い思いをせず、ただ泡となり、空気となり、なにかに溶け込んでなくなりたい。
髪の毛を拭く手は一瞬止まったが、また不器用に動き始めた。
＊
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作者名：M谷
| 作成日時：2019年12月30日 18時
