Wolf (ページ32)

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『…～！！』

『…』

ソファーでゆっくりしていると、リビングの先の廊下から少し聞こえる声。

なにを話しているかはわからないが、北人さんがヒートアップしながら話しているのは聞いて取れた。

それが耳に入ると同時に、ダメだとわかっていながらも足がリビングから廊下へと動く。

廊下のひんやりした床の感覚が体を回るとともに、自分のやってることに罪悪感を感じた。

でも好奇心は理性に勝てず、ゆっくりと耳を部屋のドアにつける。

物音を立てないようにそっと…。
完全に耳がドアについた時、二人の声がはっきりと耳に入った。

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北『壱馬！今度こそは殺されるよ！？』

壱『んなの、身も承知だわ。何言われても、俺はあいつを手放すつもりはない。』

北『自分で何言ってるか分かってる？そんなにAのことが大事！？あの子のせいで命が危険なんだよ！？引き渡したり何なりすれば、あっちも許すかもしれないんだよ！？』

北人さんは怒鳴っていた。
でも、彼は落ち着いていた。

私の名前が出てきた時、体がビクッと動く。

そしていつもはちゃん付けで呼ぶ北人さんの呼び捨てに、戸惑いを感じた。

“命が危険”
そんな今にも泣きそうな北人さんの怒鳴り声が耳にこだまする。

壱『とにかく北人が何言おうと、殺し屋もあいつとの暮らしも続ける』

あの人...、死んじゃうの...？
私のせい...？

頭を流れる北人さんの言葉のせいで、全く彼の言葉が入ってこない。

“ 殺し屋が継続中の契約を破ること。契約中に依頼主を殺すこと”
記憶からその言葉がフラッシュバックした。
彼は私を助けるためにおじさんを殺した。
でもそれは、依頼じゃなかった...。

あの時北人さんに聞けなかった質問の答えが頭の中で繋がる。

・

「殺されちゃう...私のせいで...」

口からその言葉が出た途端に、涙が溢れた。
あまりに残酷な答えに体が震えだし、そのままドアの前にしゃがみこんでしまう。

いつの間にか耳からはなんの声も入ってこない。
ただ自分を責める言葉が頭を過ぎった。
声を出さぬように口に手をやり、声を押し殺して泣いた。

鼻から抜ける息は荒く、心臓はドクドクと鼓動を増す。
それだけ、罪悪感と不安が私を襲っていた。

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