Wolf (ページ19)

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涙ページ19

＊

『あれ、北人は...？』

泣いていたせいでお風呂のドアが開いた音に気づかなかった私
いきなり背後で聞こえた声に、泣き爛れた顔など気にせずにそちらを向いた。

『おまっ、なんで泣いて...』

濡れた髪の毛から覗く瞳が大きくなる。
私はそれを合図かのようにソファーから立ち上がると、
お風呂上がりで熱を持った彼の体に抱きついた。

何も気にしない。
彼が驚いてることなんて気にしない。
私はただ声を漏らして泣いた

『おい...』

彼は私を剥がそうとするが、私は背中に手を回して力を入れる
離れて欲しくなかった。
彼も諦めたのか、肩を押す力が徐々に弱くなっていく。
それと比例するように私は腕の力を強めた。

『どこにも行かないで...、壱馬...。』

小さく“無意識”に呟いたその声に、彼の腕が私の背中に回った。

・

・

“誰かのために泣いたのは初めてだった”

・

『北人から何聞いた…？』
「…」

頭から降ってくる優しいトーンの声に、
私は彼の胸に顔を埋めながら無言で首を横に振った。

『俺のことも聞いた…？』

何もいう事ができず、ただ私は首を横に振り続け、そして抱きしめる力を強める。
涙は止まらずに、今も尚彼の黒いタンクトップ濡らし続けた。

「あ、のっ…」

泣き続けてどのくらいだっただろうか。
振り絞って出た声はかすれていた。

・

「どうして私を助けたの…？」

一番聞きたくてたまらなかった質問。
だけれども、答えが怖かった。
私はそれだけ言うと再び彼の胸に顔を埋め、背中に回す腕の力を強めた。

『っ…』

何も言わない彼。
それは顔を見ずともわかる。
ただ彼も抱きしめる力を強めるだけだった。

・