Wolf (ページ18)

今日:42 hit、昨日:117 hit、合計:524,874 hit

＊ページ18

＊

「父親の殺しを私が見たから…。伝えるかもしれないって、危険だから、あの人は私のおじさんを…？」

『あっ、おじさん？...

...いや？それは違うよ？だって依頼主あの人だもん』

「はっ＿＿＿＿＿＿＿...、いま…なん、て…？」

『あの人はねぇ、Aちゃんのお父さんを殺して、君を売り払うつもりだったのよ。君の生け捕りも壱馬の仕事。』

淡々と喋る北人さん。その顔は笑ってなんかいなかった。
知らなかった事がどんどんと入ってくる。

“じゃあ、あの人は依頼のために私を連れていったの…？”
“でもなんであの人はおじさんを殺した…？”

ついていけない事実に頭が回らない。
疑問が次々と出てきて、心を濁らせていった。

『来た時驚いたよ…。だって依頼主殺しちゃってんだもん。』

力なく笑いながら、北人さんは話を続ける。

「あの人は、なんでおじさんを…？」
『もしかしておバカ...？普通に考えてわかんない？』

先程の出来事を思い出す。
首根っこを掴んで、無理やり車に乗せようとした…。
そして連れて行こうとした…。

『殺し屋が継続中の契約を破ること』

『これはこの世界じゃ、ご法度だ。特例で許される場合もあるけどね？』

北人さんはそう私に冷たく言い放つ。

『あいにくあんたは引き渡されずここのいるし、依頼主の契約中安全保証とかも破ってるし…』

『馬鹿だよね壱馬』
「っ…」
『君なんかのために…』

そういったときの北人さんの視線は氷のようだった。
それが私の心に刺さり、痛みを与える。

殺し屋が御法度と言われるルールを破ったらどうなるのか…。
怖くて聞けなかった。
言い終わり視線を外した北人さんは顔を歪めている。
それを見ると事の重大さがなぜかひしひしと伝わってきた。

“私のせい…？”

理由もない、無意識の自責の念。

・

・

『…』

北人さんは無言で立ち上がる。
私は目で追うが、一度も目を合わせようとしてくれなかった。

北人さんが廊下を歩く音、
そして少し後の玄関のドアが閉まる音が心に虚しく響いた。
それと同時に涙が溢れる。
少しずつ大きくなっていく服のシミ。
涙でにじむ視界にあいつとおじさんの死体が見える…。
零れ出る血とそして、ナイフを持つ男。
私は声を出して泣いた…。

・