Wolf (ページ28)

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『ん゛っ…』

少し枯れた声が耳に入る。

それも無理もない、おそらく熱のせいで多少喉はやられているはず…。

私はソファーの脇に座ると彼に水を差し出した。
彼は私の目を見つめ無言でそれを受け取ると、フタを開ける。

そこで私の分も持ってこればよかったと後悔した。

なんせ数時間も側につきっぱなしで、水も飲んでない。
意識してみれば、思い出したかのように喉の乾いた感覚が体を巡った。

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水も取りに行こうと思い、再び体を立ち上がらせようとしたその時、

『なぁ、どこ行くん？』

「私の水、取りに行くだけ…」

掴まれた手首によって、立ち上がれなかった。
問いかけられた言葉に答えるが、なぜかいつまでたっても手を放してくれない。

もう我慢できなくて、彼の掴む手首など気にせずに立ち上がった。

「わっ…！」

それと同時に引っ張られた腕。

突然のことで変な声が…。

立ち上がろうとしてたもんだから、バランスを崩して彼のいるソファーへと腰をついてしまった。
幸い足を踏むなどのことはなかったが、
衝撃に備えて無意識に閉じた瞼を開けると、そこにはドアップの彼の顔。

当の本人は目をそらさずこちらを見続けていた。

「えっ、なにやっ…て」

最後の一字が少しずつ消えていく…。
私を近距離にして水を口に含んだ彼。
行動の意味があまりわからない。

「離しっ…」

“て” その文字は口から出ることはなかった。
ボヤけるほど近くになった彼の顔。
そして口、喉と順番に通っていく水の感覚。
驚きのあまり、ただ流れていく水に喉を動かす。

「えっ…」

濡れた唇が離れると、そらさない彼の視線と私の視線がぶつかった。

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『ずっと側にいてくれたの？』

彼が言葉を発すると、その吐息が鼻にかかる。
あまりの近さに私は首を縦に小刻みに振った。
そんな私を見て、“ふっ”と力なく笑った彼。

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その笑顔に不覚にも釘付けとなり、再び近く顔に反応ができなかった…。

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