いちご水２ (ページ14)

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６０water＿T side ページ14

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洗面台の鏡と睨み合い、髪型を整える。

香水も、思う存分振り掛けた。

最終仕上げとして、

気合を入れる場面には必ず着けていく

お気に入りのチェーンのネックレスを首元にぶらさげて

………これで準備は完璧だ。

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思い返す。

あれは、昨日の終業式の帰りのこと。

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人の行き交いが激しい駅前通り、

露天の周囲をうろついている一人の女を遠目に見つけた。

女は亭主のおっさんが寝ているのをいいことに

万引きでもしようと企んだのか、

おっさんの目を盗んで

いちご水とか何とかいう怪しげな飲み物が注がれた

コップを手に取った。

その行為は運悪く目を覚ましたおっさんによって

呆気なく見つかり、

捕まるくらいなら逃げてしまおうと考えたのだろう

女はその場を走り出した。

こちらへと向かってくる女は、下を向いているせいで

俺の存在が目に入っていなかったらしく

案の定、真正面から勢いよくぶつかってきて、

その衝撃でぶちまけたコップの中身によって

俺の制服は不快な甘ったるさで

見事に汚された。

衝突されて痛いわ、制服は濡れるわで

散々な目に遭った俺は

そのまま見て見ぬふりするか

もしくは捕まえておっさんに突き出せばよかったものの

予想もしてなかった出来事だったこともあって、

罪を被せられでもしたら面倒だと焦るあまり

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女の手を引いて一緒になって逃げてしまった。

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そうしてたどり着いたのが偶然、

住宅街の中心に寂しくたっている古びたポストの前だった。

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その女とは、他愛ない言葉をいくつか交わした後

互いに下の名前だけを教え合って、

それ以上何があるわけでもなく

その場で別れた。

万引きの瞬間を偶然目撃してしまい、

ぶつかったことでその中身を撒き散らされた上、

何の関係もない俺を面倒ないざこざに巻き込んできた

とんでもなく迷惑な女。

俺にとってその女の存在は、ただそれだけのものだった。

けれど何となく気にかかって

特殊な出会いだったせいか

理由はわからないけどとにかく気になって

翌日、俺は同じ場所に足を運ばずにはいられなかった。

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