いちご水２ (ページ1)

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向かい合う二人の狭苦しい空間は、

衝撃の後のこの瞬間にそぐわない

お揃いの甘ったるい匂いに包まれている。

おそるおそる顔を上げると、

目の前で呆然と立ちほうけている男の制服の

ワイシャツの胸部分は、

飛び散ったいちご水によって

薄いピンクに染まってしまっている。

それに気づいた男が不機嫌そうに

眉をひそめたことにより、

私は改めて自分がしでかしたことの重さを思い知る。

.

「ちょ、お嬢ちゃん待てや！」

おじさんの声がさっきよりずっと近づいた。

私が次の行動に迷っているうちに

距離を縮めたのだろう。

頭に巻き付けた白地のタオルを落とさないよう

片手で押さえながら

必死な形相で向かってくるおじさん。

そんなおじさんを横目に

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『………逃げるぞ！』

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とっさにそう答え、

戸惑う私の手を強引に引いたのは

紛れもなく彼だった。

これといった深い考えがあるわけでもなく、

とにかく逃げなければ、という一心で

視線が交わる間もなく

私達はおじさんの声を振り切るようにして

その場から走り出した。

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.

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しばらく走り続け、

やがてたどり着いた場所は

住宅街の真ん中にぽつんと寂しく置かれている

古びた赤橙色の郵便ポストの前。

ぜいぜいと息を切らす男の横で、

私は中身のほとんどがこぼれてしまい

軽くなったコップを片手に、

一瞬のうちに起こった数々の出来事を

把握できず、

ただ呆然と立ち尽くしていた。

.

『見ず知らずの他人を巻き込んでんじゃねえよ』

「………ごめんなさい」

『まあ、逃げ切れたからいいけど』

「………ごめんなさい」

.

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『それにしてもいい度胸してんな。

あんなに堂々と公衆の面前で万引きなんて』

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「……え？万引き？」

.

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『おっさんが寝てるからって

勝手に持っていこうとしてただろ、それ』

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「あの……違うんです。

ちゃんとお金は置いてきました。

１０円足りなかったけど、

ちゃんと返すつもりで」

私はあらぬ誤解を解こうと

出せる限りの声を荒げて必死に身を乗り出す。