かさねあい【九井一】

初恋.19 ページ19

貴「は、一くん」
その瞬間、想いが零れた

器に入り切らなくなった想いが
縁を伝って零れた

…あぁ、ダメだ
このまま彼といたら私がおかしくなる

口から出た「はじめ」という音が
源じゃなくて一になったということに気がついている

私が好きなのは一ノ瀬源じゃなくて
九井一なんだ

今でも源くんのことは忘れられてない
…だけど今までとは違う

源くんは過去の好きな人
好きだった人、初恋の人

好きだったことは変わらないし事実だけど
もう過去形だ

私が今好きなのは

貴「一くんっ…」
貴方だよ…

九井「ん？どうした？」
優しい顔で優しい声で私に問いかける

それが私に向けられていないのが、辛い
苦しい…しんどい…

貴方のその優しい眼差しは
赤音さんの為のもの

一くんの初恋の人に向けられたものだ
私のためじゃない…

そう思ったら息ができないほど悲しくて
貴「……もう、辞めよう…」

都合のいい話だよね
自分だけ源くんの面影にすがって

一くんを利用してきたのに
好きになってしまったら

自分が辛くなったらそれを終わらせようとするなんて
一くんの気持ちは全部無視して

なんて自分勝手なんだろう…
ほら、一くんが好きになった赤音さんは

こんな性格の悪い女じゃないでしょ？
私は…赤音さんにはなれない…

貴「辞めよう…初恋のかさねあいなんて…」
九井「…は、？」

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