『魔法使いが来たって、本気で思った。』 ページ1
その日、私の通う小学校に魔法使いが来た。
小石をざらざらと鳴らすと雨の音がする、というのは良く聞く話だが、その日は本当に小石を降らせているようにも思えるほどの大粒の雨が降っている日だった。
40歳くらいの男性が、一つの鞄を抱えて教室に入ってくると、私たちにその鞄が見えるように高く腕を上げた。
私たちは、やがて男性が鞄の中に手を入れる様子を黙って見つめていた。
すると、小さな鞄から、携帯電話が出てきた。次に、ノートPCが出され、二つとも用意された机の上に置いていく。そこまでは、私たちも彼が一体何を始める気なのか見当もつかなかった。
だが、その次に。その鞄にはどう考えても入る隙間などないような、大きくて白い鳩が勢いよく翼をはためかせた。
ばさ、という音は、外の雨には敵わないくらいの音だったが、私にはもう雨の音なんて耳に入らなくなっていた。
クラス中が鳴らす拍手の音も、私は聞こえなかった。
「魔法使いが来た」
そう思った。
*
「いや、魔法使いなわけないんだけどね?」
そんな懐かしい記憶を引っ張り出しながら町を歩いていた私は、思わず自分で自分につっこみを入れた。
そりゃそうだろう。魔法使いって。私はアホか。あれはどう見ても手品師だ。なぜあの時の私はそれに気づかない。そしてなぜ高校生になったこの春まで魔法使いなんかを信じていたんだ。真正のアホだ。自分は。
でも、やっぱり魔法には憧れる。一瞬のうちに移動したりとかしてみたいし、異世界にも行ってみたい。空を飛んだりとか、湖の上を歩いたりとか、動物を支配下においたりとか。
でもそんなことが出来るわけがない。そんなことが出来たとしたらとっくに世間に知れ渡っているはずだし。
そんなことが出来る人がいれば別だけ…
「ねーあのひとはとさんつれてあるいてるよー」
…は?
突如聞こえてきた子供の声に思わず振り返る。
すると、そこに。
「えっ待って!?なんで今出てきちゃうの!?ちょっとまって鞄の中潜らないで帽子の中もどってええええ!!!」
…なんとも情けない声を出す、高校生くらいの男の子がいた。
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★ - 新しい感じで面白いなぁ (2020年10月21日 21時) (レス) id: e55595ee8a (このIDを非表示/違反報告)
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