月下美人【青】 (ページ44)

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ひとつひとつ、ていねいにボタンをはめてくれて。リボンもしてくれて、乱れた髪も直してくれて。終わったら、女の子にいつも、

こんなに優しくするのかな……ってちょっと苦しい。

わたしの上から降りようとしたお兄ちゃんを、とっさに腕を掴んで引き止める。

ん？って顔して、わたしを見るお兄ちゃん。

そのシャツに手を伸ばして、はずされたままだったボタンをちゃんととめて。
ポッケを探って取り出したネクタイも、

お兄ちゃんの首に手を回して、ちゃんとしめてあげる。

｢………すっごい後悔してる。｣

翔太｢ごめん、｣

｢ちがう。……お兄ちゃんだよ、｣

後悔してるのは、お兄ちゃんのほうでしょ。

さっきから苦しそうな顔ばっかり。
わたしは嬉しかったの。お兄ちゃんが初めて、
わたしを見てくれた。キスしたいって、
思ってくれただけでもう、

これ以上ないくらい幸せだもん………

だからそんな顔されたら、

翔太｢あっちぃな、｣

｢……移ったらどうするの。｣

わたしをぎゅう…って抱きしめて、まるでさっきはごめんねって、言ってるみたいによしよしされる。

ねぇ、行かないでほしいな。

今日くらい、すぐ帰ってきてくれたりしないかな………。たくさん甘えたいの。大好きって言いたいの。もうずっと、着信音なんか聞こえなきゃいいのにって、そう思うの。