蟻を嗤うのは誰６【メイズ・ランナー】

演説と記憶[フライパン] ページ19

「皆、集まれ！」

瓦礫の向こう側にいたヴィンスが声を張り上げた。



……ミンホがいなかった。

半年もの間、この瞬間を待ってた。正直、心の中では何度も諦めかけてた。
それでも、今まで俺らはあり得ないような奇跡を起こしてきたから。


「……ちくしょう」


何でだよ、神様。
俺らはたくさんの仲間を失ってきたのに、ミンホまで遠ざけるなんてあまりにも酷くないか？



「よし、聞いてくれ」

そう切り出したヴィンスに俺も顔を上げた。


「君らは皆、地獄を見てきた。もう苦しみは終わりだ……といいたいが、まだ終わってはいない。WCKDは君らのことを諦めない。
人類を滅ぼす疫病に、君らは免疫を持ってるからだ。君らを殺してでも治療薬を手に入れたい。だが、そうはさせない」


力強く言い切ったヴィンスは、自分の後ろにある大きな船に目をやった。
青い塗装はところどころ赤く錆びているが、１番立派な船だ。


「２日後にはこのカビだらけのポンコツ船で、皆で逃げ出す。絶対にWCKDが見つけない場所に。
そこで新たな故郷としていちからやり直すんだ」

周りから歓声が上がる。ヴィンスの演説は成功した。


地獄が終わり、楽園へ。


なら、俺たちは？


ミンホを置いていくのか？



……そんなことはできない。トーマスたちも同じ気持ちのはずだ。

ミンホは、自信家で乱暴な言い方をするけど、真っ直ぐでぶつかり合うことを恐れない。自分が信じればとことん付き合ってくれる、すげーいい奴だったんだ。




「おい、ギャリー。何か食べたいなら俺が作るから言ってくれよ」

頭を抱えたくなるぜ。突然キッチンにきたと思ったら、冷蔵庫や野菜置き場を漁り始めてさ。
あーあ、あんなに乱暴に野菜を掴んだら……

「ギャリー、いい加減にしてくれよ！」

「探すくらいいいだろ？！食べ物は全部お前のモンなのか！？」

「……うるせーな、飯食ってんだから静かにしろよ。そこはキッチンリーダーのフライパンの管理下だ。他人の大事な島で騒いでんじゃねーよ」

このミンホの言葉で騒ぎが収まった。後日、ギャリーが特製ジュースを作ろうとしてたってオチに、皆で笑ったな……







「フライパン、大丈夫か？」


ニュートに肩を叩かれる。俺はグレードにいた頃を思い出していた。



「ああ、大丈夫さ」

「今からエリスたちに話を聞きに行く。君も来てくれ」

「ならお湯を沸かしてココアでも飲もうぜ。疲れた体には温かい飲み物が１番だろ？」

「ありがとう、君らしいな」

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