WCKDの人間[トーマス] ページ17
「……皆に、僕らのことを話しておきたい」
チャックの血が乾いた手にあの人形を握りしめ、僕は皆を見た。
ニュートの肩に頭を預けていたAも、虚ろな目を開けて僕を見つめる。
言葉なく、彼女の同意を得るように見つめ返せば、彼女は小さく頷いて身体をゆっくりと起こした。
「トーマス、今は……」
僕の手にテレサの手が触れた。
僕を心配する彼女の優しさに、少し力が戻るのを感じながら僕は首を横に振った。
「話すべきなんだ、彼らにも知る権利がある。そしてこれは、僕の義務でもあるんだ」
テレサをじっと見つめる、それ以上彼女が何か言うことはなかった。
「おい、何の話だ？」
フライパンが僕を見て尋ねる。
これ以上、悲しみが訪れるのを怖がるような彼の表情に気づきながらも、僕は覚悟を決めた。
「僕はチェンジングの最中に、過去の記憶を見たんだ。
あの女が、エヴァが言ったことは本当だ。メイズは実験場だった。幼少期から始まり、試練を与えられた。僕らは次々送り込まれたんだ。月に１人ずつ、３年にも渡って研究は進められていた」
「君が見た過去というのは、その試練の日々なのか？」
ウィンストンが僕を見る。
フライパンや他のグレーダー達の視線も感じる中、僕は首を横に振った。
意を決して口を開く前、僕はもう１度Aを見た。
彼女は僕をまっすぐ見つめたまま、小さく頷く。
「……僕とテレサ、そしてAはWCKDの側だった。君達をメイズに送った彼らの。僕は君達を長年見てきたんだ、君達がここにいる間、彼らの側にいた」
「……嘘、だろ？」
フライパンが呟き、ウィンストンと顔を見合わせる。
「トーマス、テレサ……それに、Aまで？」
フライパンが驚きを隠せないまま僕とテレサ、そしてAを見る。
「……ごめんなさい」
Aが消え入るような声で謝った。
沈黙に包まれる、静かに口を開いたのはニュートだった。
「僕とミンホはトーマスが目覚めたときにその話を聞いた。その上で、僕らはトーマスに着いていくと決めたんだ。僕らにはメイズに入る前の記憶はない、今はトーマスもAもテレサも、僕らと同じ仲間だ」
フライパンとウィンストンは互いに顔を見合わせていた、やがてフライパンが口を開く。
「俺は信じるよ。グレードで過ごした日々は記憶のない俺にとって、かけがえのない人生の１部だ」
「ああ、僕もだ。今の君達を信じるよ」
２人から差し出された手を、僕は力強く握り返した。
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灰(プロフ) - ゆかりさん» ゆかりさん、コメントありがとうございます。私には勿体ない言葉ばかりで恐縮ですが、とても嬉しいです。パワーが漲って参ります！更新を再開しましたので、ぜひこれからも遊びに来ていただけると嬉しいです。コメントを残してくださり、本当にありがとうございました。 (2019年5月13日 21時) (
レス) id: 29fcd6d8e4 (このIDを非表示/違反報告)
灰(プロフ) - ふわりんさん» ふわりんさん、コメントありがとうございます。そして、とても遅い返信になってしまい申し訳ありませんでした。久しぶりにここへ来てコメントを発見し、とても申し訳ないとともに、有り難い気持ちで一杯になりました。本当に励みになります、これからまた頑張ります！ (2019年5月13日 21時) (レス) id: 29fcd6d8e4 (このIDを非表示/違反報告)
ゆかり(プロフ) - はじめまして、いつも素敵なお話をありがとうございます！私もメイズランナーが大好きなのですが、灰さんの書かれるお話が面白くて更新を楽しみにしています(^^)背景描写やキャラの心理状態の書き方が丁寧で読みやすくて引き込まれます！これからも応援してます(^^) (2019年5月12日 23時) (レス) id: 6d37aeb524 (このIDを非表示/違反報告)
ふわりん - 初めまして♪この作品の更新をいつも楽しみにしてます！これからも更新頑張ってください。応援してます♪ (2019年4月22日 18時) (レス) id: 17d42863df (このIDを非表示/違反報告)
灰(プロフ) - Hatomuraさん» コメントありがとうございます。おお、私もなんです。全３部作と聞いたので公開が終わるまで待っていたのですが、もっと早く見れば良かったと後悔しました(ノД`)そう言っていただけて、書いて良かったなと思えます。ゆっくりペースですが、これからも更新頑張ります！ (2019年4月11日 21時) (レス) id: 29fcd6d8e4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：灰 | 作成日時：2019年3月26日 19時
