一話 ページ3
翌日の、帰り際。
建は、珍しく佳と並んで帰宅しているのではなかった。
代わりに隣で歩いているのは、建の少し遠い親戚にあたる少女、
彼女もまた、明高の生徒であり、建とは2学年違う、一年生だった。
落とされて間もない烏の糞を踏まないよう、注意しながら歩いての無言の帰宅途中だった。
その無言を打ち破ったのは楓だった。
「
「まあ、多忙だった日なんて一度もないぞ、今日もまた、多忙でない平凡な残りの半日を送る予定なんだけど…」
「宿題、分かんないところが出てきたから、教えて欲しいんだよね」
えへへ、と苦笑しながら言う楓。
まあ、基本いつものことであるのか、建は渋々ながらも
「へーへー、分かったよ…」
と言い、承諾した。
「わぁっ!やっぱり建兄は優しいね!」
「まるで幼稚園児みてーだな…」
子犬のように顔を輝かせて喜ぶ楓に、建は苦笑して答える。
「え、私は高校生だよ?」
きょとんと首をかしげる楓は、本当に幼稚園児のように映る。
「そういうとこだぞ……?」
と、建はそこまで言って後に何も言わなかった。
しばらく、会話もなく歩いていると、線路が見えてきた。
「あ、じゃあ先に行ってるね!」
線路の脇に寄って靴紐を結ぼうとした建に楓はそう言い残し、線路をさっさと渡って行ってしまった。
建が靴紐を結び終える頃には、既に踏切の信号が交互に点滅し、警戒色の棒が建の行く先を遮っていた。
その棒の先には、るんるん気分で歩いている楓の姿があった。
電車が通る。
近くに駅があるのか、結構ゆっくりと走っていた。
車両と車両の間から楓の姿が見える。
ふと、映像がスローモーションになる。
建はその間に、楓の姿を見て絶句した。
楓は、血と泥にまみれた姿になっていた。
そのくせ、先程までと同じ足取りで歩いている楓。
佳はこの違和感からの嫌悪感、そして見た目のインパクトからの吐き気に、すっとずっと耐え続けていたというのか。
建の額からは嫌な汗が噴き出ていて、手も震えている。
建はこれ以上ない程に取り乱していた。
「……はは、嘘だろ…」
絞り出した言葉もろくな言葉ではなく。
スローモーションでなくなり、既に電車が通り過ぎた線路で。
交互に点滅を繰り返していた信号も、道を遮るあの棒も、先程の状態に戻っていて。
ただ、夕焼けが空を飛ぶ烏を照らしていた。
それでも烏は黒く。
烏達は鳴いていた。
遅ればせながらも。
物語は、始まった。
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こきあ@鈴木家の母(プロフ) - いちごみルく。さん» 読みやすいですか?!ありがとうございます!頑張ります! (2021年12月17日 23時) (レス) id: 83905c476e (このIDを非表示/違反報告)
いちごみルく。(プロフ) - とっても文章が読みやすくて続きが気になります!おうえんしてます! (2021年12月17日 23時) (レス) @page6 id: fb2070bc6d (このIDを非表示/違反報告)
こきあ@鈴木家の母(プロフ) - 花橋りなさん» ありがとうございます!更新頑張らせて頂きます! (2021年10月10日 13時) (レス) id: 83905c476e (このIDを非表示/違反報告)
花橋りな(プロフ) - めっちゃ更新待ってます!あっ!イベント参加ありがとうございます!!高評価ポチっと!! (2021年10月10日 10時) (レス) @page2 id: 5c2392d27e (このIDを非表示/違反報告)
こきあ@鈴木家の母(プロフ) - 無名。さん» お気に入り登録、コメント、評価、何から何までありがとうございます!更新頑張らせて頂きます!拙い文章ですがこれからもお楽しみ下さいませ! (2021年6月21日 21時) (レス) id: 44169c853d (このIDを非表示/違反報告)
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