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「 Aちゃんだっけ! 」
知らない顔が私の目の前で、私の名前を呼んでいる。一応返事をしておくが今から来る話題に全力で身構えた。友達ができないのは多分こういうところだと思う。
「 俺、元木湧。風雅の友達 」
「 初めまして 」
「 やっぱり風雅の言うとおりかわいい〜! 」
「 こんな地味な私のどこが可愛いんですか 」
「 地味じゃないよ、てかAちゃんってさ」
片方の口角をわかりやすく上げて、耳元に近づいてくる顔。
「 風雅のこと好きでしょ 」
「 えっ、え、は、はぁ〜!?!?そんなことないです!!、 」
私の反応がよっぽど面白かったのか腹を抱えて笑う、湧という男。流石に私も動揺しすぎた。
「 分かりやすいね 」
「 あの、このことは秘密にしてください 」
「 え〜俺口緩いしな〜。じゃあ条件飲んで? 」
「 条件? 」
「 俺の言うことを5個聞く! 」
「 なんですか、それ、 」
「 無理なら言っちゃうよ?ふふっ 」
軽く笑っているけど私からすれば全然笑えない。湧さんの真っ黒で大きな黒目が私だけを見つめていて、まるで縛り付けられてるみたいな感覚になる。
「 じゃ、わかりましたよ、従えばいいんですよね… 」
「 そうそう!まず一つ目!俺が飽きるまで一緒にいてあげること! 」
「 なんですか、それ 」
「 風雅と毎日一緒でしょ?だから俺とも一緒にいて、他の友達に慣れた方がいいよ。俺人脈広いし 」
「 で、でも 」
「 しかも風雅の事、嫉妬させられるかもよ?」
嫉妬。その一言で揺らいでしまう自分が馬鹿馬鹿しい。でも、風雅に嫉妬されたいという歪な感情がその条件を簡単に飲ませてしまった。
「 じゃあ、今日一緒に帰るよ? 」
「 ふうがは、 」
「 なしに決まってるじゃん 」
少しばかり反論はしたかったけれど、湧さんの黒目がまた私を見つめるせいで何も言えなくなった。静かに口を閉じて教室に戻る。
チャイムが校舎中に響く。来てほしくなかった放課後を合図している。
「 内村 」
「 Aちゃん行こー! 」
風雅に呼ばれた名字に振り返ろうとしたのに引っ張られる左手。
「 湧? 」
風雅が湧さんの名前を呼んでも無視して、このふたりが友達になんか見えない。
「 いいんですか、これで 」
「 いいよ、効いてる 」
湧さんはまた片方の口角だけを上げて笑った。
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作者名:るいさん | 作成日時:2022年5月15日 0時