２３８：はっきり 〜J〜 ページ38
「おかえり。」
どこか寂し気な笑顔で出迎えてくれたAを靴も脱がず抱きしめた。
「ただいま。」
抱きしめてた腕を解き、手を握ってリビングへ向かう。
ソファ座って『おいで？』って手を広げると、いつもみたいに飛び込んでは来なくて、ゆっくり抱きついてきた。
「いいよ？」
「ん？」
「もう…泣くの我慢しなくていい。俺の前で我慢すんな。」
「…っ…ん。」
堰を切った様に身体を震わせ、泣くAをキツく抱きしめ、頭撫でてやる。
Aの耳の上に頬をくっつけてるから、Aの嗚咽が直に伝わってきて。
「お前は…俺が思ってる以上にツライ思いしてきたんだな。」
首を横に振るだけの返事をするA。
夕方からの部の前に帰ったA達。
その後、チーフを捕まえて当時の事を詳しく聞いた。
Aに聞くのは酷だと思ったし、実際にチーフから聞いてみて…Aには聞かなくてよかったって思った。
スタッフには聞かれたくなかったから、必然的に場所は楽屋で…。
そうすると…メンバーも聞いていて。
話しの内容に、途中で『席を外す』と言った翔くんに、他の３人も楽屋を出て行こうとしたけど俺が止めた。
皆に聞いてもらう事で、俺の逃げ場を無くしたかった。
チーフは『違う』と言ったけど、結局は特別扱いされたの同じ事だし…。
それをされた以上、俺も覚悟を決めないとならない。
『チーフ。俺が…大河さんの分も…いや大河さん以上にAを幸せにしてみせるから。』
やっぱり頷くだけのチーフ。
『俺が覚悟を決めた以上、チーフも覚悟決めて下さい。』
俺の言ってる意味…わかってるよね？
それには返事をせずに楽屋から出て行った。
チーフ啖呵を切った俺をメンバーは目を見開き驚いた表情で。
けど…
『やっと覚悟決めたみたいだね？ぼんやりじゃなくて、はっきり。』
ってリーダーだけはふにゃふにゃ笑ってた…。
「今までツラかった分も…幸せを感じられる様に…笑顔でいられる様に…俺、頑張るから。」
「…ん。」
「Aの抱えてる悲しみとかツラさ…俺にも半分頂戴？俺も一緒に背負ってく。」
「…ん。あり…と。」
俺にしがみつくAを、隙間もなくキツくキツく抱きしめる。
「…やっぱり…俺とお前は大河さんが引き合わせてくれたのかもな。」
そんな迷信じみた事信じたてなんてなかったけど、やっぱりそうなんじゃないかって思って。
いや…そう信じたい。
俺にAを託してくれたって…。
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作者名：しおなな
| 作成日時：2013年11月7日 8時
