２３６：父親 ページ36
潤くんに『チーフ』と呼ばれてる人は…
多分、いつも一緒のマネージャーさんよりも偉い人で…。
でも…私にとっては…。
足が震える…。
全身から血の気が引く…。
無理矢理に頭の片隅に押し込んでた７月７日を思い出す…。
「妻も…ずっと君の事を心配してて…謝りたいって。」
「いえ…。いいんです。」
ついに身体がフラついて、倒れそうな所を潤くんが抱き止めてくれた。
「A？大丈夫か？楽屋戻ろう。」
「ううん。大丈夫よ…平気。」
やっぱり…私は幸せになってはいけないのかもしれない。
この温かい手を離さないとならないのかもしれい。
そうでなければ…もう一度、この人に迷惑や失望、失意、絶望…全ての負の感情を私がもたらすかも…しれない。
「Aちゃん？俺は…松本の上司って言うか彼らを守る側としては、君との事を心底喜んではない。寧ろ…離れてもらいたい。」
「チーフ！認めてくれたじゃねぇか！何を今更！俺はぜってぇ別れねぇぞ！」
そう言って私を隠す様に抱きしめる。
潤くんが怒鳴っている様子を、他人事の様に見て…。
あぁ…やっぱり…って。
恋愛が御法度のアイドルが同棲なんて…ね。
事務所の人達が手放しで喜んでるなんて…そんな夢みたいな事を思ってなかったけど、現実を突きつけられて…目の前が真っ暗になった。
それ以上に私はこの人に、もうこれ以上迷惑はかけられない。
かけてはいけないの…。
「…ただ…。」
潤くんが怒鳴っても、顔色も態度も変えず冷静に話す彼。
「…はい。」
「一個人として…いや…大河の父親としては、君が幸せになる事を心底望んでる。」
「…えっ…？大河…さんの…父親…？」
潤くんが呆然となる。
「Aちゃん？大河が亡くなったのはけして君の所為じゃない。」
「…はい。」
「事故だ。それがわかっていながら、君を責める様な事を言った。本当にすまなかった。」
私に深々と頭を下げている様子を涙の膜がかかるフィルター越しに見て。
「…夫婦でずっと…君に謝りたくて…。後悔して…。」
突然、愛する息子が亡くなって、怒りや悲しみの持って行き場がなかったんだと思う。
それで…私に…。
…私もそうだった…。
明日美にも…まどかにも…お兄ちゃんにもたくさん迷惑をかけた。
「息子があんなに大事にしてた君が…やっぱり息子と思って育てきた松本と…。これは何かの巡り合わせかな…。」
大河そっくりな目元にシワを寄せて、目を細め優しく微笑んだ。
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作者名：しおなな
| 作成日時：2013年11月7日 8時
