２３５：チーフ 〜J〜 ページ35
Aの手を引いたままドームの中をスタスタと歩く。
途中ですれ違うスタッフは目を見開き驚いている。
「潤くん？いくらなんでも…まずくない？」
Aにそう言われて手を離した。
「…もぉ〜マジに焦った。」
壁にもたれて項垂れる。
「ね…。やっぱり子供でも軽々しく言っちゃダメなんだよ。」
「いやな…いいんだ。別に。俺は嘘言ってないし、嘘にするつもりもないから。」
「うん。」
「ただな…あのままあそこにいたら…確実に弄り倒されてたぞ。」
Aはあいつらの、人を弄って遊ぶ性悪な所を知らな過ぎる。
最悪…公開プロポーズしろとでも言われそうだ。
「自販機はまだあっちだ。行こう。」
Aの背中をポンとして歩く様に促す。
「友梨ちゃん、りんご好きなの。」
「そうか。あったかな。」
歩きながらそんな話しをしていると…
「松本。」
聞き覚えのある低い声で背後から呼ばれて振り返る。
「…チーフ。」
やっべ…。
今日は来る日じゃねぇって安心してたわ。
抜き打ちって根性悪くね？
Aもゆっくりと振り返って…チーフの姿を確認した途端…顔も身体も強張らせた。
「…A？」
Aの顔からサーッと血の気が引いてくのがわかる。
「…A？どうした？気分悪い？」
チーフには報告もしてあるし、今更焦ってもって思い、Aの顔を覗き込んで背中を撫でる。
「…やっぱり…。松本から名前聞いていて…そうじゃないかと思ってたんだ。今日来るって聞いて…。」
コツコツと足音を立てて俺とAの正面に立つチーフ。
「もう…約５年ぶりかな？久しぶりだね？Aちゃん？」
『Aちゃん』…？
「…はい。ご無沙汰しております。」
震えるか細い声で、そう挨拶したAは深々お辞儀をして。
てか…身体も震えてる…。
事の真意を問う様に、チーフの目をジッと見た。
けど、俺なんか簡単に無視されて…。
「ずっと…どうしてるか気になってたんだ。」
「はい。ご連絡もしないで…。」
「いいや。いいんだ。君の気持ちもわからなくもないし。」
苦笑いを浮かべるチーフ。
Aは…俯いたままだ。
「けど…７月７日…。」
その言葉にビクッと身体を大袈裟に震わせる。
７月７日…？
七夕？
「君は欠かさず会いに来てくれてた。」
「はい。」
「その気持ちが嬉しかったよ？」
「いえ…。」
俯いたまま、首を横に振って小さな消え入りそうな声で答えた。
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作者名：しおなな
| 作成日時：2013年11月7日 8時
