１６９：１０年 〜J〜 ページ9
仕事現場の出口で早希と出くわした。
「今日はもう上がり？」
「あぁ。」
早めに終わったとあってAに会いに行こうと思ってた。
日曜日から会ってはないけど、毎日の電話の声が少し元気がない様に思えたし。
「…ねぇ…少し付き合ってくれない？」
「…。」
早希がなにを考えているのか探る為にジッと目を見たけど…上手く躱される。
「ちょっとだけでいいのよ…。話し聞いてくれるだけで…。」
「…やっぱお前…何か『浮気されてるの』」
言ってる内容はかなりショッキングな事なのに、何て事の無いように笑って言った早希。
でも、その笑っている目の奥は寂し気で泣きそうで…。
「…どこ行く？」
「私の行きつけでい？」
「あぁ。」
短く返事をして、先に歩き出した早希の後を歩いた。
・・・話しの内容が内容なだけに、今日は電話は出来ないかもしれないとAにメールを送る。
「…彼女？」
「あぁ。」
「随分と大事にしてるのね？」
「今の俺には嵐と同じ位大事なモノだよ。」
メールを送信して、カウンターの上に無造作に携帯を置いた。
早希がバックからタバコの箱を取り出し、中身を一本出して咥える。
「タバコ…やめてなかったんだな。」
「最近…またね…。」
そう言って火をつける。
「…私の何が悪いの…かしらね？」
ゆらゆら揺れるタバコの紫煙を潤んだ目で見つめてる。
早希の旦那はテレビ局のプロデューサー。
業界ではかなりのやり手だ。
「…やっぱり…私がしてきた事に対する罰かしらね…？」
タバコを灰皿に置き、代わりにグラスを傾けてやっぱり潤んだ目を俺に向ける。
「…お前、俺に何て答えて欲しいんだ？」
「ふふふ。」
自嘲気味の笑いが俺に届く。
「あんなに可愛いかった潤も…こんな大人の男になっちゃったかぁ…。」
コトンとグラスを置くとバーテンダーに次を要求してる。
「…あれから何年だ？軽く１０年以上は経ってるぞ？」
「その間に何人の女を知ったの？」
『クスクス』とバカにした様に笑う早希は、あの頃もそうだった。
俺だけが一生懸命だった。
「…それをお前に言う必要があんのか？」
「ん？知りたいじゃない？私が女を潤に教えて『早希』」
冷たい声で遮る俺を見る早希。
「そんな話しだったら帰る。」
「ごめん、冗談よ？相変わらず直ぐに熱くなるんだから。」
そう言うと、新しいグラスの中身を全て呑み干した。
そんな早希を尻目に俺は一旦席を立った。
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作者名：しおなな
| 作成日時：2013年10月21日 11時
