１６７：酔い 〜J〜 ページ7
「さて、できましたよ。」
「今日も美味しそうね？将来潤くんのお嫁さんになる人は幸せね？料理上手な旦那様で。」
俺の背中越しにヒョコっと顔を出したAが言ったその言葉に、カウンターに皿を乗せてた手が止まった。
わかってる…Aは深く考えて言ったんじゃないって…わかってる。
けど…Aはやっぱり俺とそういう未来を描いてはいないんだって…突きつけられた様な気がして。
「潤くん？」
「ん？何でもない。」
言えない…聞ける訳がない。
Aの本心を聞いた所で…今の俺はどうする事もできないんだから。
「そ？ねぇ？何飲む？」
「ん〜…ワインでいんじゃね？」
「はい、了解です。」
嬉しそうに弾んだ声で返事をしたAが、俺から離れて冷蔵庫に向かう。
今…そう、今この瞬間は確実に幸せで。
Aの柔らかい笑顔を見てたら、それでいいのかなって思えた。
・・・「…酔った？」
「…ん〜ん。」
ソファにAの腰を抱いて座り、ワインの入ったグラスを傾ける。
俺の肩にコテンと頭を乗っけるAは、大概酔ってる時。
頬から首に手を這わせると、いつもより少し熱くて。
「やっぱ酔ってんじゃん。」
「酔ってない。」
「酔ってるヤツ程そう言うんだよ。」
Aからグラスを取り上げて、ペットボトルの水を渡す。
「酔ってないのに…。」
「いいから、それ素直に飲んどけ。」
膨れっ面のAだったけど、素直に飲んだ。
水を飲み終わって、やっぱり俺の肩に寄りかかるAの頭を撫でてやる。
「あ…。」
「ん？どうした？」
Aの視線の先には早希が映っていて。
「この女優さん、昨日いたよね？」
「…あぁ。」
「最近よく見るね？」
「ん〜映画の公開近いからな。番宣だ。」
「…そう。」
Aの声のトーンが低いのが気になって、顔を覗き込む。
「ね？潤くん…この女優さんとお友達？」
「…え？」
「私がお店入った時お話してたでしょ？」
「あ！あぁ！そうそう！友達だよ？」
友達っていう友達じゃねぇけど、まさか元カノとは言えねぇし…。
変に答えて詳しい関係を聞かれたくないしな。
「そっか。たくさんお友達いるのね？」
って言って、俺の膝の上に乗っかって抱きつく。
「やっぱ酔ってんな。」
「ふふ…そうかも。」
甘えるAが可愛くて、Aの本心を見抜こうとしなかった俺。
だから…Aは…。
俺の変なプライドの所為で…
…俺は一番大事なモノを失った。
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作者名：しおなな
| 作成日時：2013年10月21日 11時
