１９０：恐怖心 〜J〜 ページ31
やっぱりAの根本には、大河さんを突然失ったトラウマがあって…。
「失った時の事ばっかり考えて、潤くんに甘えたりとか…依存したくない気持ちにセーブしてて。けど、もう…段々自分でも制御できなくなって…。」
Aからマグカップを取り上げてテーブルに置くと、抱き上げて膝の上に下ろした。
素直に従うAの頭を引き寄せて、首筋に押し付けた。
「…潤くんを信じてないわけじゃないの…。ただ…失う恐怖感から逃げ出した…私が弱すぎるのよ…。」
「お前のその恐怖感ってのは、どんなに俺が口で『好きだ・ずっと一緒だ』って言っても…薄れる事はないって…俺もよくわかってる。」
だから…俺は…こうする事で少しでもAが安心してくれればって思い頑張った。
まぁ…自分が安心する為でもあるけど。
「お前、部屋探すんだろ？」
「…うん。契約更新しないって書類出しちゃったし…。」
「明日…いや…今日からここに住め。」
「…え？」
「事務所からも許可もらってある。」
「え？！」
俺の首筋からガバッと顔を上げた。
「…俺の立場や仕事上好ましくは無いって…お前もわかってるだろ？」
かろうじて頷いたAの頭を撫でてやる。
「それを…あえてする事で…俺がどんだけお前に本気かってわかってもらえるか？」
「…。」
「お前より長生きする保証なんてどこにもねぇし…そんな事をしても、お前の根本にある恐怖心てのが全く無くなるわけでもない。」
長い睫毛を涙で濡らしながら、瞬き繰り返すAの頬に流れ落ちる涙を親指で拭ってやる。
「けどな…俺は…その恐怖感を抱えるお前ごと受け止めて…これからずっと一緒にいる覚悟はある。」
そこまでの思いがなければ、こんなに頑張れない。
「…なぁ…わかってもらえるか？」
目に溢れる程の涙をためて、ポロッと一粒こぼし頷いたAが俺に抱きつく。
「…わかったなら、もう二度俺から離れようとすんな。」
「…ん…ごめ…。」
「いいよ。俺も悪かったんだし。自分のちっさいプライド守る為に、一番大事なお前失ってりゃ世話ねぇよな…。自分のバカさ加減に呆れたよ。」
そして…死ぬ程後悔した。
Aを信じてるって言い聞かせて、必死に大丈夫なフリをして強がってたけど…。
Aにもう二度と会えないかもしれないっていう恐怖心は俺にもずっとあった。
「…でも…マジで……会えてよかった。」
そう…それが俺の心からの本音。
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作者名：しおなな
| 作成日時：2013年10月21日 11時
