１７９：曖昧な笑み ページ19
息つく間もない多忙な日々は…
現実から目を背ける事ができる。
日本ではもう桜は散っただろうか…。
このまま季節がいくつもいくつも通り過ぎて、一回り…二回りすれば…
きっと…思い出にできる。
ひと時の幸せな夢だったと…。
この地では日本で見る程潤くんを見る事はない。
「…私…移動届け出そうかな…。」
ボソっと言った私を、横目で呆れた様に見る。
現実的に受付勤務で移動なんてありえない。
こっちに来てからのまどかの視線はずっとそんな。
「…また明日美からメール来たわよ。」
「…そう。」
「ねぇ？あのスーパーアイドルはどうでもいいけど、明日美まで騙すのは…さすがの私でも心が痛いんだけど？」
「そうよね…ごめん…。」
視線を合わせる事もしないで、窓の外を見たままボソッと言う私にまどかの大袈裟なため息が聞こえる。
「そんなに好きなら、なんで別れたりするのよ。」
「『好き』だなんて…一言も言ってないけど？」
「顔に書いてる。『忘れられない』って…。それに腕と首。」
外せないネックレスとブレスを見る度に…潤くんの目を細める優しい微笑みを思い出す。
潤くんが早希さんと何かある…なんて思ってない。
けど、少しでも疑った自分がイヤで…。
これから先も…こんな機会があるかもしれない。
そしたら…今度こそ潤くんは私から去るかもしれない…。
だから…これ以上好きになる前に…。
そんな事を思った私は、結局…潤くんを信じていなかったと同じ事で…。
彼はあんなに真っ直ぐ私を思ってくれたのに。
こんな私は…潤くんの隣にいる資格は無いの。
「潤くんには…こんな私なんかよりも、もっとお似合いの人がいるはずよ…きっと。」
「『諦めない』そう宣言して、探し回ってるって。」
「…そう…。もう私には関係ない事よ。」
「どうしてそこまで意地を張る必要があるのよ？あっちはあんたがいいって言ってんのに…。」
そのまどかの問いかけには答える事はしないで、やっぱり窓の外を眺めてるフリをする。
「…あんたそうやって、一生逃げて生きてくつもり？」
「…。」
「あんたがそんなんじゃ、大河さんも浮かばれないわ…。」
「…迎え…来てくれないかな…？」
「…それはどっち？大河さん？アイドル？」
まどかの低い怒ってる声に振り向き…
曖昧な笑みを浮かべて誤魔化した。
「…これでいいの…いいはずよ…。」
やっぱり曖昧に笑った。
笑ってるはずなのに…
どうして涙が出るんだろうね？
ねぇ…潤くん？
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作者名：しおなな
| 作成日時：2013年10月21日 11時
