１３６：もし… 〜J〜 ページ16
今日の撮影も無事終わり、素早く帰り支度をする俺を唖然と見るスタッフと共演者。
「松本さん…わかりやす過ぎです。」
苦笑いでマネージャーに言われて。
「そ？」
「どちらまで？」
「自宅。」
「はい。」
腕時計をチラッと見て…ギリか…。
起きててくれれば嬉しいな。
Aからの『おかえり』が欲しい。
まぁ…欲を言えばだけど…。
「…ねぇ？」
「はい？」
「もし…もしだよ？」
「…はい。」
イヤな予感でもするのか…。
マネージャーの声が低くなる。
「…「同棲したい』って俺が言ったらどうする？」
「…。」
黙り込むマネージャー。
だよな…無理だよな。
「いかにしてそういう結論に？」
「ん？」
「松本さんが、周りも後先も考えずに言われる内容じゃないと…。」
そういう事か…。
「Aの…彼女の同僚に…バレた。」
「えぇ？！」
焦った様な大きな声を上げるマネージャー。
普通は焦るわな…。
「まぁ…それは大丈夫だったんだけど…。俺が彼女の家に行ってる時にバレて。だから『セキュリティの頑丈な松本さんの部屋の方がリスクは少ないと？』」
さすが、長年一緒なマネージャー。
「あぁ。それにな？彼女が『怖い』って…。だから『会う時間を少なくしよう』って…。」
「その条件を松本さんは飲めないと？」
「あぁ。今でさえ少ないって思ってるのに…。」
「それで『同棲』ですか？」
「あぁ。やっぱ…ダメ…だよ…ね？」
「…上には私から話しておきます。」
「よろしく…。」
そうだ…この人は俺のマネージャーで、その辺りの決定権は…ない。
自宅に着いて、足早に部屋に向かいドアを開けると視界に入るのは、きっちり揃えられているAのパンプス。
思わず顔が綻ぶ。
リビングのドアからは光が漏れていて、期待感で足取りも軽い。
「A〜？ただいま。」
…あれ？
Aの『おかえり』が聞こえない…。
足を進めながらキョロキョロ部屋を見渡すと、ソファにうたた寝するAを発見。
膝の上には文庫本が置かれてて。
それが読んでる間に眠ってしまったんだって物語っていて。
可愛い寝顔にチュッとしてみる。
…起きねぇじゃん…。
俺は王子様じゃねぇってか？
身体を揺すって辛うじて起きたAは、頭も目も半分寝てて…。
けど、こういう時には…自分から甘える可愛いAが見れる。
『おかえり』を聞けなくて寂しさ半分、甘えるAを見れて嬉しさ半分。
チュッとキスを落としてバスルームに向かった。
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作者名：しおなな
| 作成日時：2013年10月5日 16時
