３４：口癖 ページ35
あれから潤くんは、私の休みに合わせて来たいって言ってくれたけど…。
次の週末からツアーが始まるらしくて、週末ごと地方に飛ぶらしい。
そして、それが終わったら…大晦日の国民的歌番組の司会。
とにかく年内は超多忙だという事。
「なるべく時間作るから。Aさん…Aもキャパ超える前に言ってよ？」
「うん。」
「絶対ね！」
そう念を押してチュッと軽いキスをしてうちの玄関を出て行った。
一緒に寝てても、キスだけで一線を超えようとはしない潤くん。
潤くんには潤くんの考えも都合もあるだろうから、あえて気にもしていなかった。
潤くんの目には嘘は映ってないし、私を抱きしめてくれる腕にも偽りはないって信じてる。
だけど…これは気になって。
「ねぇ、潤くん？」
「ん〜？」
私を自分の胸に抱き寄せて、腕枕してない方の腕でゆっくり頭を撫でてくれる。
「私って…いつまで『さん』？」
「ん？どゆ事？」
「いつまで『Aさん』？」
「…いつまで…？そんな事考えた事もなかったな。」
「じゃぁ…ずっと？」
私がそう言うと頭の上で軽い笑いが聞こえる。
「何で笑うの？」
「いや…そんな事で拗ねるAさんが可愛いくて。」
「…拗ねてなんかない。」
「口調でわかんの。」
子供を宥めるみたいに背中をポンポンってしてくれる。
「…じゃぁ…ずっとそれでいい。」
子供扱いされてるのが恥ずかしくて悔しくて。
「だから、拗ねんなって。」
「拗ねてな『A』」
…。
「A。」
潤くんの優しい声が、私の身体の中にスッと入ってきて。
顔を胸に埋めたまま、上目遣いで潤くんを見上げた。
目が合うとちょっと照れた様にはにかんだ潤くん。
そんな潤くんにキュンとなって。
「A。」
ってもう一度優しく微笑んで言ってくれた潤くんに、もう心臓はバクバクで、耐えられなくなって顔を胸に押し付けてギュッと抱きついた。
「はは。自分からそう促しといて…Aのが照れるってどういう事？」
「だぁってぇ〜。」
「あ〜もぉ〜可愛い。」
潤くんもギュッと抱きしめてくれた。
・・・それから潤くんとは会えてはなかったけど、メール…それと夜のほんの少しの時間でも電話をくれた。
「声聞くとすっげぇ会いたくなる。」
それが最近の潤くんの口癖。
今年はもう会えないって覚悟をしてた矢先に、一本の電話がかかって来た。
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作者名：しおなな
| 作成日時：2013年7月22日 13時
