３０：遠い世界 ページ31
返信をしなかった日から、潤くんからのメールは未開封のまま。
私が返信をしなくても、律儀にメールを送ってくる。
「Aさん…何だか最近は落ちてますね？この間はすっごく嬉しそうだったのに。」
「ふふ。私ってそんなにわかり易い？」
「ん〜…最近は…特に。」
「後輩にそんな事言われるなんて…ダメね？私も…。」
目の前でパスタをフォークでクルクルする静香ちゃんが、心配そうで、悲しそうな目を向ける。
この会社で唯大河の事を知ってるのは静香ちゃんと、同期で友人のまどかだけ。
結婚の事も会社に報告する前に大河は亡くなったし。
「でも…私、今のAさん好きですよ？」
「ふふ。ありがと。」
「…いい人できたんですね…？」
静香ちゃんのその質問には答える事はしないで、曖昧な笑みだけを返した。
今日もやっぱり明日美に借りたDVDを見る。
明日は土曜日で休みだし。
いつもより強いお酒を煽る。
画面越しで会う潤くんは、潤くんだけど…潤くんじゃなくて…。
どこか遠い世界の住人って気がする。
背中を預けているシングルベットで、この人の腕に包まれて眠ったなんて…やっぱり夢だったんだろうか。
アイドルと恋愛する夢見るなんて…やっぱり私は病んでるんだ。
グラスにウイスキーをロックで注ぎ、それを一気に呑み干すと、頭も身体もふわふわして…。
・・どこかで携帯が鳴ってる。
ん〜でもめんどくさい。
いいや…ほっとこ。
あ…切れた。
ん〜もう！また！！
しつこい！！
バンバンと目を瞑ったまま手探りで携帯を探して、画面も見ずに適当にタップして携帯を耳に持っていく。
「…はい。」
寝ていたのと、呑んでいたので声は掠れて低い。
ー…よかったぁ。やっと繋がった。
ん？潤くんの声？
ーAさん？ね！Aさん？玄関開けて？
…ん？玄関？玄関…開けて？
玄関のドアからコンコンと音がする。
「え？！」
携帯を持ったまま玄関に走り、鍵とチェーンを外してドアを開けた。
ドアの中に素早く入り込んで来たのは、やっぱり間違えなく潤くんで。
「ただいま。」
って微笑む潤くんに見惚れて…
状況がイマイチ理解できなくて…唖然と固まる。
そんな私を見て、困った様に眉を下げた潤くんが、
「おかえりは？」
って私に言う。
「あ…おかえり。」
唖然としている私は棒読みでそう言って。
そんな私をやっぱり困った様に見つめてた潤くんだったけど、
「会いたかった。」
って靴も脱がないまま私を抱きしめた。
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作者名：しおなな
| 作成日時：2013年7月22日 13時
