今日…僕は恋をした (ページ13)

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１２：惨め～J～ページ13

いつもなら、『写真』だとか『人目』だとか…そんな事は当たり前に気が回るのに…。

そんな事は頭から吹っ飛んでて、自分の手のひらから感じるAさんのぬくもりを手放したくはなくて、そのまま歩く。

「松本くん？マズイんじゃない？」

って少し後ろから聞こえるAさんの冷静な声で、その手を離した。

「…ごめん。」

「ううん。」

なぜかAさんの方が申し訳なさそうな顔をしてて。

「…ごめん。…でも…。」

「ふふ。いいのよ。」

「送る…送らせて？」」

真っ直ぐAさんを見て言ったら、茶色がかった綺麗な目を細めて微笑みながら頷いてくれた。

「…じゃぁ、少し後ろ着いて来て？」

「うん。」

前を向いて歩き出しても、後ろが気になって気になって。

横目でチラチラ見ようと試みけど、当然見えない。

コツコツとAさんのヒールが鳴り響く音だけが、Aさんが俺の後ろにいるって事を知らせてくれる。

元々、あの店自体が住宅街の中の目立たない場所にあるせいか、ここの道も人通りは少なく、仕事帰りのサラリーマンと、時折すれ違う程度。

大通りに出て、直ぐにタクシーを捕まえて、先に乗り込む。

タクシーにはそのまま止まっててもらい、３分くらい経ってAさんが乗り込んできた。

「Aさん？家はどこ？」

「ん？○○辺りよ？」

「ん、了解。」

タクシーの運転手にに行き先を告げて、車は発車する。

車内では会話はなくて…やっぱり横目でAさんをチラチラ見たりするけど、Aさんは窓の外の流れる風景を見てるだけ。

視線を下に向けると、さっきまで俺が握っていた真っ白い綺麗な手が目に飛び込んでくる。

爪もやっぱり綺麗に切りそろえられていて、控えめなベージュのマニキュアが施されていて。

「…Aさん？」

自分でもびっくりする程に掠れた声で呼ぶ。

「ん？」

振り返ったAさんと目が合う。

「なぁに？」

「…あ、いや……。また…また！あそこで…。」

って言いながらなんとなく直視できなくて、視線をずらすと俺の目にあの指輪が…。

「ん？松本くん？」

そっか…そうだ。

「…ううん。いいや。ごめんね？」

「そ？」

不思議そうな顔をしたAさんが、また窓の外に視線を向けた。

俺は…自分が好きな女の子を…
別の男んトコに送ってくって事か…。

そんな自分がすっげぇ惨めで…思わず軽い笑いをこぼしてしまった。