１１：目が… 〜J〜 ページ12
チラッと見たAさんの横顔はやっぱり綺麗で。
チラッと見ていたはずなのに、やっぱり見惚れて凝視していたらしい俺。
そんな俺の視線に気付いたのか、不意にこちらを向いたAさんが『ん？』って表情をして首を傾げる。
その表情に仕草さに…心臓があり得ないくらい脈打って震える。
自分でも顔が赤くなるのを感じて、慌てて首を振り俯く。
「はいよ。」
マスターがぶっきらぼうに俺のお気に入りのカクテルを出してくれる。
「あ、サンキュ。」
パッと顔を上げて見えたマスターの顔は俺に何か言いたげで…。
「俺、裏にいるから。」
とだけ言ってカウンターを出た。
微かに耳に届くクラッシック音楽。
…それ以外に音は無く。
俺はただ、目の前のグラスに水滴が増えるのを見つめるだけ。
「…松本くんて…。」
いきなり名前を呼ばれて、Aさんに視線を向けると、俺の方を向いていて。
色素の薄い茶色の瞳に吸い込まれそうになる。
「…な、何？」
ゴクっと生唾を飲み込んで、やっと出た声は小さく掠れてて。
「ふふふ。ううん。何でもない。」
「え？…気になるじゃん。」
「そ？」
それだけ言って、また正面を向く。
え…？
それだけ？
「Aさん？」
「ん〜？」
「俺、すっげぇ気になんだけど。」
そう言った俺を見たAさんは、優しく微笑み、
「目が綺麗だなって思って。」
って言った。
「…は？」
「ふふふ。なぁに？その気の抜けた声。」
「え？いや、だって…そんな事言われるなんて…。」
「アイドルさんは、そんな事言われ慣れてるでしょ？」
鼻で笑ってちょっとバカにした様に言ったAさん。
「…俺をバカにしてんの？」
カチンときて低い声で言う。
「ううん。何か…羨ましいな。」
「…え？」
「それだけ前を向いて真っ直ぐ走れるって。」
やっぱり寂しそうに笑ったAさん。
「松本くんを…アイドルをバカにしてる訳じゃないのよ。」
「…うん。」
「私は…いつになったら…。」
薬指の指輪に視線を向けて、潤んだ目を隠す様にカクテルを呑み干した。
「さて、私は先に失礼するね？」
バックを持って立ち上がるAさんの手を思わず掴んだ。
「え？松本くん？」
「送る。」
俺も立ち上がり『マスター？ここ置いとく』と言いカウンターにAさんの分と一緒にお金を置く。
動揺するAさんの手を握ったまま店を出た。
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作者名：しおなな
| 作成日時：2013年7月22日 13時
