【恋うた】Disc 1 (ページ40)

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(Kei side•16歳暮秋)

「…あっ、」

「…はぁ…またかよ…」

「薮も？」

「ああ、うん。」

「「…はい。」」

もうすっかり涼しくなってきた10月中旬、いつもの昼休み、いつもの屋上で薮と光と三人の集まり。

今日は天気が良く、強すぎない陽射しのもとでは暖かく感じられ、この季節特有の澄んだ空気に包まれて、とても心地いい時間。

弁当箱を開けたら、俺の天敵である緑のやつが最初に目に入って、思わずため息が出た。
向かいに胡座をかいてる薮も同じタイミングで同じ愚痴をこぼしたから、おそらくいつものパターンだ。

互いに弁当箱を差し出して、薮が俺のからほうれん草のお浸しを、そして俺は薮のからプチトマトを取った。

この一連の動きを見て、「……お前ら、テレパシーでコミュニケーション取ってんのかよ？！」と、光は呆れた顔でツッコんだ。

「別に、こいつが苦手なもの俺食えるから食ってやるだけだし」

「俺はトマト食べたいだけ～薮が苦手とかそんなの関係ない～」

「おいっ！」
ペシッと頭叩かれたけど、全然痛くない。

「はいはい、ラブラブなのはもうわかった、ごちそうさまー」

「だからそんなんじゃねーよ！」

2人がつまんない言い合いを聞き流して、弁当を頬張る。
ああ～やっぱトマトうまっ。

「はは、また出たよ、伊野尾の“トマトうまい！”って顔」

「ほぇ？」

「思っただろう？トマトおいしい～って」

「…思った。」

素直にそう答えたら薮が“ほらやっぱりな”と言わんばかりの笑顔を見せたので、少し恥ずかしくなって、目をそらした。

「おめぇら、好き嫌いダメって教わってなかったのか？」隣に座ってる光は自分のを置いて、薮から弁当箱を奪い、2分前まで俺の弁当に入ってたほうれん草を取って俺の口元に運んだ。「ほら、いのちゃん、ちゃんとほうれん草食べなさい！」

「やだ、薮にあげたんだもん」

「そんなの理由になってない！お母さんが栄養バランス考えてこういうメニューを出したんだから全部食べなきゃダメだよ！」

「なんだよその言い方、光俺の母さんかよ！」

「いいから食べなさい！」

しばらく続いた睨み合いを終わらせたのは、光の左手を掴んで箸先のほうれん草をパクっと食べた薮だった。

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