【恋うた】Disc 1 (ページ28)

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薮とは物心がつく前からずっと一緒にいる、幼馴染と呼んでいいのか腐れ縁と呼んでいいのかもはや分からない関係。

家が近所で、同い年の男の子がいるという繋がりで知り合った親たちには“宏ちゃん、慧ちゃん”ってコンビみたいな呼び方でずっと呼ばれてた。

1月生まれの薮は一個上の学年だったはずだけど、子供の頃体が弱くて、何回か長期入院したから俺と同じ学年になった。幼稚園から小学校、中学校、そして今通っている高校まで全部一緒で、もう“人生の半分以上知ってる”とかじゃなく、“同じ人生を歩んでいる”と言ったほうが事実に近いと思う。

『宏ちゃんはお兄さんだから、慧ちゃんのことを守るんだよ』

大人たちにそう言われて責任を感じてるのか、薮はいつも俺のそばに居てくれて、何があっても俺を助けてくれた。

俺も俺でちっちゃい頃泣き虫で人見知りだったので、どこに行っても薮にべったりくっつかないと落ち着かなかったらしい。

幼稚園の時、薮が入院でいないと俺は一人で教室の隅っこでずっと泣いてた。大好きなご飯とおやつの時間も食べることを拒んで、先生がどれだけあやしても泣き止むことなく、自分のと薮の分のおやつを持ち帰るって聞かなかった。

お迎えの時“宏ちゃんのところに行く！”といつも駄々をこねて、結局毎日のようにお見舞いに行って、幼稚園からエスコートしてきたお菓子を病室で二人食べてた。

このようなエピソードが多くて、今になってもたまに親たちにおしゃべりのネタとして『慧ちゃんってば、ほんと宏ちゃんのこと大好きだったのね～』とかで茶化される。

覚えてる？と聞かれるたびに“うるさい”、“そんなの覚えてない”って言い返すけど、実は全部ちゃんと記憶に残ってる。

薮がいないとどうしても不安になるのも、会えるの待ち焦がれて病院の廊下を走ってしまったのも、その日のおやつを見せると目がなくなるくらいの笑顔で『ありがとう慧ちゃん』と言ってくれるのも、全部はっきりと覚えてる。

『一人にしてごめんね、すぐ戻るから待ってて』

分かれる際にまた泣き出す俺の頭を撫でて、ふにゃってなる笑顔で毎回約束してくれた。

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