【恋うた】Disc 1 (ページ27)

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(Kei side•16歳盛夏)

「伊野尾―まだ―？」

「ん～もうちょっと待って…」

「早くしろよ―」

レジの方から薮が促す声が聞こえる。
適当な返事であしらいながらアイスケースの前に佇むと、待ちきれなかったのか、「何やってんだよ～」って呟いてドタドタとこっちに迫ってきた。

「早く決めろよ―」

「え～でも迷うじゃん～バニラとチョコ」

「知らねえよそんなの！てかまたアイス食うの？」こんなの食べ過ぎたからお前身長伸びなかったよって憎まれ口を叩く薮は、悔しいけど俺より頭半個分くらい高いから、ぐうの音も出ない。

「…もう170超えたし十分ですぅ～ていうか薮も冷たいの飲むじゃん」ちらっと横見ると、薮の手にはいつもの紅茶。四角いペットボトルのやつ。

「だって暑いんだもん！液体だしアイスなんかよりましだよ」

「…言ってる意味が分かんないし」

今日はどっちかというとバニラの気分だな、バニラで行こ。

アイスケースのスライドドアを開けると、煙のような冷たい空気が出てきて、それだけで“おお！気持ちい～”って手をケースの中に出し入れしてはしゃぐ薮と目を合わせると、クシャっと笑った。

子供の頃からずっと変わらない、大好きな笑顔。

最近見るたびに胸がきゅっと痛むのは、目の前にいる大親友には絶対言えない秘め事。

「……はい、これで決めた。会計よろしく―」

「ほーい…っておい！130円じゃ足りねえって！！」

「ベンチで待ってるねー」

毎回絶対言ってくる小言を聞き流しにして、自動ドアの音とともに店を出た。

やっぱ暑い…融ける…

学校の帰り道にある小さいコンビニ。店前のベンチは俺達の定位置。
腰を下ろしてボーとしてて、いつもうるさく思う蝉の声がなぜか遠く聞こえるような気がした。

小さい頃、ここは確か駄菓子屋さんだったな…と、なんとなく昔のことを思い出した。

いつだろう、コンビニに建て替えられたのは…もう思い出せないや。

ピンポーンという音が鳴って、会計を済ませた薮が左側に座って、「ほれ、お前の」とカップアイスとスプーンを渡した。

「どーも」

「お前さ、マジで消費税考えろって。なんで毎回毎回俺が足りない分払わなきゃならねえの？！」

「ええ～だって宏ちゃん優しいから払ってくれるでしょう～？」

呼び方気持ちわりぃ！ってケラケラ笑い出した薮は俺の頭を軽く叩いた。

蓋を開けて、スプーンを入れると、アイスはすでに溶けかけてる。

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