【恋うた】Disc 1 (ページ38)

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「あ～あ、泣くな泣くな、目まで痛くなるよ？」
背中を優しく擦られるとまた涙が溢れだす。

何でだろう、好きな人に大事にされて、嬉しいのに…

嬉しいはずなのに、胸がぎゅーと締め付けられたようで、苦しい。

「ごめん…やぶ…ごめっ、なさい…」

「へえ？今の何の謝りなん？」
困ったような質問にちゃんとした言葉で答えられるわけもなく、ただひたすら頭を振った。

「もう～わかったから、泣くなって…」俯いてる俺の顔をあげさせて、少し乱暴な手付きで涙を拭いてくれた。「急にこんなことゆってごめんな。急かしてるわけじゃねんだから…お前のペースでいいから。とにかく、俺の見えるとこにいろ、な？」

まだヒックヒックしてる俺が頷いたら、また“いい子”って頭を撫でてくれた。

「やぶぅ…」

「うん？」

「…明日の昼飯、光を誘ってみるね」

いつも薮と二人で屋上で過ごす昼休み。それは中学からの習慣で、一度たりとも他の奴が交じることはなかった。

何度も“○○たちと一緒に食べようよ～”って言われて、そして何度も断った俺が、初めて自ら誰かを誘おうとした。

薮は一瞬目を見開いて、またすぐクシャッと笑って、

「おう、大歓迎だぞ！」って。

その笑顔のために、初めて自分を変えようと思った。

さっき、ぼろっと漏らした“ごめんなさい”の本当の意味、薮は分かってるだろうか。

いつかきっと、薮が俺じゃない大事な人ができて、今みたいな依存関係でいられなくなる日がやってくる。

その時が来たら、こっちから笑ってさようならすると決めたから、少しずつ、ほんの少しずつ、その日を迎える準備を進めたいんだ。

でも、きっとその時、俺はバカみたいに泣くだろう。

泣いて、薮を困らせるだろう。

――だから、ごめんね、こんな弱い俺で。

その日が来るまで、甘えさせて？

【夏の恋人】fin.