【恋うた】Disc 1 (ページ32)

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『…無理。しんどすぎて絶対死ぬ。』

『大げさだよ、選手じゃなくてマネージャーだって。お前の運動不足も解消できるし、一石二鳥だぞ！？』

『……余計なお世話だ』

無意味に聞こえる口での攻防戦がその後もしばらく続き、珍しく諦めが悪い薮はとうとう『分かった！勝負しよう！』って、めちゃくちゃな提案を言い出した。

『…何？勝負って』

『期末テスト。そうだなー公平性確保のため、英語の点数で決めようぜ！』

『なに一人で熱くなってんだよ！まだ何も言ってないわこっち！』

『なるほど～ビビってんだな伊野尾は』

挑発的な言葉に釣られたのは、たぶん “伊野尾がいい”の一言に心底うれしく感じたからだと思う。

…言っとくけど、八百長じゃなかったよ？

勝負だって言われたし、俺も薮も勉強はできる方だから、ふざけで成績表を見せつけたりもしょっちゅうやってるし。

だからこそ今回の英語試験2点差で負けたのが悔しかった。
俺が入部届を書いてるところニコニコしながら見つめる薮を見てたらなおさら悔く思った。

こんなことならゴリ押ししても競う教科数学にしとけばよかった…

暑い…重い…

今日こそ絶対アイスを奢らせる…いつも食べてるのじゃなくて高いやつ…

てかこれから毎日これかよ…考えるだけで絶望的…

…なんて、くだらないことを思いながら歩くと、目の前に人が見えた。

あれ？この後ろ姿は…

「八乙女くん…？」

「はい、あっ、えーと…」

「俺、伊野尾。同じクラスの」

「ああーそうだそうだ。ごめん、顔は覚えてるけど名前はまだ…」

「大丈夫だよ。何か探してるの？」

顔の前に手を合わせて謝った彼は今日初日の転校生で、名前は確か八乙女光というんだっけ。

HRでの自己紹介は眠かったのであまり聞いてなかったけど、“俺と同じくらい珍しい名字だ”と思って覚えた。

「俺、軽音に入りたいけど、部室どこかわかんなくて…」

「なるほどーだから大きい荷物もってんのね」

「へへ、コイツ、俺の相棒っす！」
背中の楽器ケースをポンポンと叩いて、爽やかな笑顔を見せた。

笑う時の八重歯が印象的だな。

文化系の部室はグラウンドの向こう側だから、向かう方向が一緒。

“連れてってあげよっか”って言ったら、“じゃあそれ重そうだから一緒に運ぼう”って、提げ手を持ってくれた。

なんて優しい人…感謝感激！

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