【恋うた】Disc 2

8 ページ12

.


そこまではまだいいんだけど。


ショー当日、ステージに立った瞬間からけいさんの姿を探してたけど、最後まで見つからなくて。

お客さんはたくさんいるし、みんな飲んで踊って騒がしい空間だから見落としてもしょうがないか。
そう自分に言い聞かせたけど、一応ステージに近い関係者席へのパスを渡したから腑に落ちなかった。

ていうか人だかりの中でも、もしけいさんがその場にいたなら、すぐ分かる自信はあるよ…



誘った時、けいさんは“行く！DJやってる大ちゃん見たい！”って嬉しそうにパスを受け取ったのに…

どうしたんだろう。何か急な用事でもできたかな。



悶々としながら何とかターンテーブルをいつも通り操り、何とかイベントをこなした。

控室に戻って携帯を見たら、未読メッセージが一通だけあって。
差出人はけいさんじゃなくて、まさかの知念だった。


あいつがいない時を狙って誘ったのに、なぜバレた…？




『二度といのちゃんをそんなところに誘うな。したらぶっ殺す。』

いくらラスボスでも、このセリフは怖いよ…






翌日、サロンで会うなり、けいさんは眉を八の字にして“昨日はゴメン”と謝ったけど、理由を聞く前に鬼の形相で知念が“いのちゃんが謝る必要はない！”って話に割り込んできた。


その後けいさんがこっそり話してくれた。


『知念ちゃんは絶対過剰反応するから、黙って行くつもりだったけどバレちゃって…そしたら送ってくって言って店の入口までついて来て、クラブだってことわかったからめっちゃ怒って、絶対入らせない！って引きずって帰ったの。別に怪しい店じゃないしそんなに怒る必要ないのに…』


知念の過保護っぷりは訳分かんないけど、小首を傾げて“ほんとゴメンね？”って申し訳無さそうに謝るけいさんが超の字が付くほど可憐で思わずキュンとしたから、そこはほっとこう。


当時の俺はそう思ってたけど…

やっぱり、気になっちゃって。



当の知念は一言も発さず、俺の言い分を飲み物とともに流し込んでるかのように反応してくれない。
一気にぶちまけて、全部言い終わったらだんだんこの沈黙が気まずくなってきた。






.

9→←7

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す