【恋うた】Disc 2

【Pretender】12 ページ1

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昨日薮が使った机に目をやると、薮のMDプレイヤーとノートがある。
そこに座って、イヤホンをつけて、再生ボタンを押した。



あ…この曲。

2､3週間前に光に聞かせてくれた、軽音のOBからもらったというデモ曲。メロディーがすごく良くて、自分のバンドの作品にしたいけど、歌詞が書けるやついないからって薮にお願いしたんだっけ。

その時薮は可否を言わないまま話題を終わらせ、光もたぶん断れたと理解して諦めたけど…


書きかけの歌詞は、ノートに挟んでる。

薮の手書きで、お世辞にもきれいとは言えない字で、ずらりと。



旋律に合わせてそれを読んでたら、いつからか目の前が霞んでしまい、喉の奥が詰まったように息がしづらくなった。

書いては消して、違う言葉を何回も入れ替えてみたのが分かるほど、ボロボロになっている一枚の紙には、薮が片思いの気持ちを文字にした。繊細で、詩的な文面が心の一番柔らかいところにグッと来て、痛みがじんわりと滲んでくる。



すごく、好きなんだな、その子のこと。
良かったじゃん、いいのができて。

きっと伝わるよ。
傍観者の俺でさえ、こんなに感動されたんだから…



ほとんど出来上がってる歌詞の中に、一箇所だけ下線が引いてるところが空いてる。
そこに頭に浮かんできた言葉を入れた。

シンプルな言葉だけど、それが正解な気がする。


分かるよ、隠せなきゃいけないのに、隠しきれない、溢れてきそうなその感情。

俺も同じ気持ちでいると言ったら、信じてくれるのかな？









その日の晩ごはん、まさかの光が作った弁当だった。

お母さんがパートで作れないからコンビニで買って帰るとうっかり言っちゃった薮は、“病人に冷凍食品食わせるつもりなのか！アホ！”って、光に怒鳴られたらしい。

放課後ダッシュで家に帰って作って、俺んちまで送ってきた弁当は、とても優しい味で、熱で食欲あまりない俺でもほぼ完食した。


薮が洗い物をしてる間、光にお礼の電話をかけた。


『もしもしいのちゃん？体調だいじょうぶ？』

2コールで出て、開口一番に俺の様子を聞く光は、やっぱり優しいやつだ。





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