幽かないのち ページ11
＊
ほとんどなにも入っていないスクールバッグ片手に階段を駆け上がる。
もっと早く、と急かしたいのに運動不足で鈍っている脚は言うことを聞いてくれない。
やっと着いたかと思えば息は絶え絶えだし、膝は笑ってるし。ひとまず深呼吸を挟まないと何もかもがままならない。
幽霊。
ふいに檜山の声が脳裏で蘇る。幽霊なんているはずがない。いたとしてもこんなありきたりな学校に出るわけない。
ただ平凡に日々を過ごす私には、関係のない存在。そうだと思っていたいはずなのに、屋上のドアノブを捻る手は酷く冷たかった。
がちゃ、と重い扉を開けた瞬間頬に雨粒が掛かる。
冷たい風が横切って、屋上のフェンスをガタガタと揺らしていた。
今すぐ内村くんに会いたい。
でも、ここにいてほしくないとも思う。
両極端に矛盾した感情に苛まれた時、ふいに視界の端で影が揺らめいた。
「また来たの？」
フェンスに寄りかかってこちらを見据える内村くん。
服装は半袖のカットシャツに裸足のままで、とても冷たい雨を凌げるものではない。灰色の空にぼんやりと浮かぶその姿から生気は感じられない。
むしろもっと無機質で、まっさらで、冷たくて。
あの肌に触れた時と同じように、真っ白な陶器を目の当たりにしたような感覚だった。
内村くんは人間だ。
どう考えたってそうだ。
幽霊なんかいない。わかってる。内村くんはちょっと不思議なだけだ。相当不思議でちょっとおかしな子というだけだ。
それなのに。
「内村くんは、何者なの？」
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作者名：しれん | 作成日時：2024年3月7日 22時
