短編集『恋日記。』【Ｎ】 (ページ31)

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*世良side*

「あ、深海(しんかい)先生。」

「あ、世良くん。お疲れ様。」

「お疲れ様です。」

心臓外科の紅一点。

深海A先生は、渡海先生と並ぶほどに腕が良い医者だ。

２人が付き合っていると知ったのは、最近のことだが。

「世良くんは、もう少ししたらオペだっけ？」

「あ、はい。渡海先生のオペに入ることになってます。」

「そっか、良かったね。」

「良かった、んですかね…。」

苦笑いを浮かべながらそう言葉を零すと、

ﾊﾟﾁﾊﾟﾁ…と大きな瞳を瞬かせた彼女は、

「世良くんは運が良いね。」といつもの柔らかい笑顔を浮かべた。

「運が良い？」

「だって渡海先生のオペに入るって、すごく勉強になるでしょ？」

渡海先生の腕が良いのは、皆が知る事実。

オペ室の悪魔という異名を持っているだけあって、

誰もが目を疑うような速さと、それに劣らない的確な手技。

確かに自分の為になることがたくさん吸収できる場だ。

‥もうちょっと、優しくても良いんではと思うことが多々あるが。

そう思った時、深海先生のPHSが鳴る。

「ちょっとごめんね。‥はい、深海です。はい……、すぐ向かいます。」

どうやら呼び出しがかかったみたいだ。

「じゃあ、オペ頑張ってね！」

「あ、はい！深海先生も！」

「ありがとう。」

天使が微笑んだ時の空は、怖いくらいに青く澄んでいた。

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