短編集『恋日記。』【Ｎ】 (ページ3)

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さっきまで陽だまりの中で、

気持ち良さそうに眠っていた彼は、いつの間にか起きていた。

「お、起きてたの…？」

「アンタが、愚痴零してる辺りからね。」

「最初からじゃない…！」

あの独り言を全部聞かれてたんだと思うと恥ずかしくて仕方ない。

熱を上げ始める頬を隠すように、ゆるゆると下を向けば。

「別に恥ずかしがらなくていいでしょ。」

またｸｽﾘという意地悪な笑い声が鼓膜を撫でた。

その静かな笑い声が余計に羞恥心を煽って、さらに頬の熱が上がる。

ｼﾞﾘｼﾞﾘと熱を帯びていく頬を手でそっと押さえてみれば、

想像よりも熱くてびっくりする。

いつもは嫌だと思っている冷たい指先も、

今の私の熱い頬にとっては、とても有難かった。

一生懸命顔の熱を冷ましていると、

突然、ｶﾀﾝと椅子から立ち上がるような音がして。

何かと不思議に思っていると、

今度は私の隣にある椅子が音を鳴らして、ﾌﾜﾘと柑橘系の匂いが鼻を擽る。

「‥わっ、」

「教えてあげようか？」

その匂いの正体を知るために顔を上げると、

視界に捕えたのは、前に居たはずの彼の綺麗な横顔で。

「ん？」

「っ…、」

色素の薄いその瞳に見つめられて、

冷めたはずの頬の熱は、また上昇していった。

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