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マリウスや勝利の大学の友達だというAが家に来てから、もう１ヶ月になる。仕事に忙殺されていた時期をひっそりと支えてもらったり、お礼に江ノ島へ連れて行ったり。正直不安だった同居生活は、案外順調に進んでいるといっても良いんじゃないだろうか。彼女の恋路以外は。
「……別の好きな人を作る、ねえ」
「なんだよ」
「いいえ？」
含むようにそう呟いて、菊池が肉を一枚攫っていく。仕事終わり、なんだか落ち着かなくて菊池を飯に誘って焼肉に来た。今日は割り勘なのでいつもよりちょっと良い店である。
「それで今日合コンに行っている、と」
「あいつアルコール飲めるのか？ いつもほろ酔い飲んでね？」
「まああんまり強くはないんでしょうね」
バーベキューでAが飲んでいるのはいつも３％のお酒ばかりだ。それも、ちびちび飲むから結局量は少ない気がする。思わず顔を顰めた俺の目の前で、菊池がふは、と小さく笑った。
「そんなに心配なら駄目だって言えば良かったのに」
「俺はそんな立場じゃないだろ」
かわいい後輩の友達で、住まいを提供している家主的存在。つい保護者のような気持ちになってしまうが、彼女の行動を制限する権限はないのだ。
「それでいくと、Aちゃんの気持ちに口出せる立場でもありませんよ」
「そうだけどさ。じゃあ菊池はあれで良いと思う？」
「思いませんね」
「だろ？ ずっと報われないままなんて」
それも一種の恋の形である。けれど、好きな人を想うばかりじゃなく、誰かに大切に想われる恋だってある。常に痛みを抱える恋だけじゃなくて、幸せな気持ちで包まれるような、そんな恋だって知ってほしい。
「じゃあ中島さんがなればいいじゃないですか」
「え？」
「Aちゃんの好きな人。そういうの得意でしょ」
「はあ？ 何言ってんの、大学生だぞ？」
白米を食べながら菊池がそんなことを言う。思わず大声で叫んでしまい、慌てて口をつぐんだ。危ない危ない。……そう、大学生なのだ、彼女は。
「でも成人してるし。大学生と付き合ってる社会人なんて俺の周りにも結構いますよ」
「そうだけどさ、一緒に住んでてそれはマズいだろ」
「一緒に住んでる時点でマズいよ」
「マリウスに言ってくんない？」
全ての元凶はあいつだ。背の高いかわいい後輩を思い浮かべると、脳内の彼はてへっと悪びれなく笑った。
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作者名：ハル | 作成日時：2024年1月11日 16時
