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他に好きな人を、といったって、簡単に出来るならもうとっくに見つけているわけで。
こちとら片想い３年目に突入しているのだ。拗らせ具合を見くびらないでほしい。……とはいえ、中島先輩の言葉は悲しいくらいにド正論だった。さすがの私も耳を塞ぐことは出来ず、これからどうするかを数日間ぼんやりと考えた。
今までは、違う人を見る気も無かった。けれど、無理矢理ではなくても、外を見る機会を作った方が良いかもしれない。というのが、私の答えだった。
「先輩。今日は帰り遅くなります」
金曜日の朝。
今日は２限始まりなのでのんびりしている私の横で、中島先輩が会社に行く準備をしている。ネクタイを結ぶ先輩にそう伝えると、先輩はジャケットに手を伸ばしながら「ん、」と返事をした。
「いつもの食事会？」
「飲み会ですけど、いつものメンバーではないです」
ちら、と壁にかけられているカレンダーを目にやった先輩が、こちらを見やる。カレンダーにはお互いのスケジュールを書き込んで共有してあるのだ。特に、授業やバイトで帰宅時間がばらばらな私の予定が大まかに分かるように、先週あたりから書き始めた。
ちなみにいつものメンバーとは聡くん、勝利、マリ、凛の４人のこと。その時々によってメンバーは変動しながらも、授業終わりに出かけるのは大体この人たちだった。
「え、違うの？ ……ってことは、合コン？」
「的な感じ、だそうです」
あまり詳細を聞いていないので分からないのだ。中島先輩はなんだか心配と戸惑いが混じった複雑な表情を浮かべている。
「どんなに遅くなっても帰ってきてね？」
「はい」
「連絡してくれたら迎えに行くから！ 飲みすぎないでよ？」
「大丈夫ですよ。バイト帰りと変わりませんし」
「お酒入っての夜歩きは別でしょ。……送ってくれる人が出来たなら別だけど」
「うーん、それは無理じゃないですかね」
私の事を心配してくれる男の人なんて出来るだろうか。へらりと笑うと、先輩がムスッとした顔で「そんな事ないでしょ」と言った。
「Aは自己評価が低すぎ。もっと自信持ちな？」
「あと消極的なの！」と怒ったように付け足され、言い返せない私は黙って目を逸らした。
「ま、楽しんでね！ 連絡はすること」
「……はい。行ってらっしゃい」
「行ってきます」
先輩を玄関まで送る。ガチャンと閉まったドアを見て、思わずため息をついた。
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作者名：ハル | 作成日時：2024年1月11日 16時
