▽ 夏祭り ページ12
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上半期の試験が終われば長い夏休みがやってくる。
結局、新しい好きな人が出来なければ聡くんを諦められないまま、試験期間を迎えてしまった。「噂なんて放っておきな」という勝利の有難いお言葉をもらったことで、私は聡くん達とつるむのも辞めないまま、新しいマンションも見つけられないまま。試験期間はバイトをセーブして、３人で大学に残って勉強するのが１年生の頃からのお決まりだった。
「へー、もう試験の季節か。夏だねー」
バイト終わりと変わらない時間に帰宅してレジュメを広げている私に、お風呂上がりの中島先輩がしみじみと呟く。
「試験が終わったら夏休みじゃない？ 何するの？」
「基本はバイトですね。夏休みはシフト入れ放題ですし」
「えぇー、バイトだけ？ つまんなくない？」
中島先輩が唇を尖らせる。つまらないもなにも、私の夏休みなんだけど。集中が途切れかけていたこともあり、プリントから目を離して中島先輩を見上げた。「どっか出かけたり旅行とかしないの？」と先輩が首を傾げる。
「うーん……あ、勝利がそろそろ免許取れそうなので、江ノ島に連れて行ってと聡くんとお願いしてます」
「へえ、仮免取れたんだ」
「無免許２人と初心者マークは怖いから中島先輩か菊池先輩に助手席乗ってほしいって言ってました」
「えー！ 俺も勝利の運転する車乗りたーい」
「あとは、試験最終日に大学の近くでお祭りあるんで、それも行って来ます」
「あー、あそこの神社ね！ 俺らもよく行ったわ」
大学から少し離れた所にある神社は、毎年試験が終わる時期に夏祭りが展かれる。試験から解放された学生がわんさか訪れるので、お客さんの半数が大学生だ。
「いいなー夏祭り。俺仕事じゃん」
「終わってからでも間に合うんじゃないですか？」
「俺も参加していいの？ なんて冗談だよ。試験終わりに楽しんでおいで」
あはは、と笑った先輩は「邪魔してごめんね」と言うとキッチンの方へ歩いて行った。お祭りに行くメンバーは相も変わらず聡くんと勝利だから中島先輩が来たら喜ぶだろうけど、誘っても来てくれなさそうだ。江ノ島ドライブは呼んであげてと明日勝利に伝えておこう。
会話が途切れ、少しリフレッシュになったので再度レジュメに視線を落とす。コトリと控えめに物音がして、横目で見ると空になっていたグラスに麦茶が注がれていた。さて、もう少し頑張らないと。
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作者名：ハル | 作成日時：2024年1月11日 16時
