２１３：ピンキーリング ページ8
「いらっしゃいませ。」
重厚なドアを翔くんが開けてくれて、中に促される。
こんな高級そうなジュエリーショップに入った事のない私は思わずキョロキョロ。
「あ、櫻井さん。お待ちしておりました。」
って落ち着いた声が聞こえる方を向くと、やっぱり落ち着いた大人の女性。
「A？篤斗の彼女の美幸さん。」
「初めまして。こんにちは。」
頭を下げて挨拶をする。
「あ、そんな…。」
焦った声が届きパッと身体を直す。
「こちらこそ、初めまして。篤斗からお噂はかねがね聞いておりますよ？」
柔らかく微笑んだ彼女に、
「アイツ、何言ってんだ？怖ぇんだけど。」
苦笑する翔くん。
「ふふ。櫻井さんが可愛い彼女を溺愛してるって事くらいでしょうか。」
「なんだ。それなら別にイイや。本当の事だし。」
何て事ない様に言った翔くんは、ショーケースを覗く。
「もぉ！翔くん！恥ずかしい！」
こういうお店の雰囲気上、大きな声は出せないから耳元で言う。
「何が？だって、Aは可愛し、俺はAを愛してるし別に問題はねぇだろ？」
「そういう事じゃぁ…。」
「あ、A？これなんてどう？」
話題を変えられた…。
「ん？可愛いんじゃない？けど、これピンキーリングじゃないよ？」
「そ？それってどれ？」
何個もあるショーケースの中を覗く。
「こちらです。」
美幸さんに言われた方に向かうと、中には可愛いピンキーリング。
「可愛い〜。」
ハートモチーフや、クローバーモチーフ…
ショーケースの中を覗き込んでいると、
「Aさん？参考までにサイズの方を確認させて頂いてもよろしいでしょうか？」
って声をかけられる。
「え？はい。私のでいいんでしょうか？」
「はい。あくまで参考ですので。」
にっこり営業スマイルを浮かべる美幸さんに右手を差し出す。
「左手でもよろしいでしょうか？」
「あ、はい。」
なぜだかわからないけど、全部の指のサイズを計られて。
「ねぇ、A？もう少し色々見ない？」
って翔くんに言われる。
「うん。」
翔くんに右手を引かれて、順番にショーケースを覗き込むと、見えた『Wedding』の文字。
ダイヤの付いたエンゲージリングと、お揃いのマリッジリング。
「綺麗だね？女の子の憧れだよね？」
「そ？Aも？」
「まぁ一応ね？」
あんまり言ったらプレッシャーになるし、気負いさせたくないけど私の視線はある指輪に釘付けになった。
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作者名：しおなな
| 作成日時：2013年7月29日 22時
