２１２：ケーキ 〜S〜 ページ7
「A？準備できた？」
洗面所にいるAに声をかける。
「うん。」
鏡越しに目が合って、ふんわり笑うA。
「今日も可愛いね？やっぱりその服買って正解だよ。」
「そ？ありがと。」
「さて、行きますか？」
左手を差し出すと、躊躇なく俺の手をしっかりと握ってくれる。
車に乗っても手を握り合って目的地まで向かう。
「妹さんって、どんなのが好みなのかな？」
真剣に悩むAには、ほんっと申し訳ないけど、妹のは口実で今日買うつもりは全くない。
そもそも俺ら兄妹、そんなに仲良くねぇし。
雅紀くんみたいに妹を可愛がるなんて、俺には無理だな。
ずっと一緒に育ってきた双子だからこその繋がりみたいのがあるのかな？
「…ね？そう思うでしょ？」
「あ？えっ？」
ヤベ、聞いてなかった。
「もぉ〜、翔くん最近変だよ？夜遅くまで起きてるみたいだし。」
あ、ヤベ…
そっちもか。
「ん？そんな事ないよ？もっとかまって欲しいの？」
確かに最近、やるべき事の色々な事が気になって回数も少ないかも。
「もう！そうじゃなくて！」
「はは。わかってる。ちょっとね？実家で色々あってね。」
「そっか。帰らなくて平気？」
「あぁ。妹もいるし…弟はまだアテにはならないけど。」
何かどんどん嘘を積み重ねる事に罪悪感。
「私に出来る事あったら言ってね？」
って心配そうに言ってくれる。
「うん。大丈夫だよ。Aは俺のお世話だけでいっぱいいっぱいでしょうから。」
家事ができない俺に代わって、卒なくこなしてくれる。
「ふふ。そうね。」
「んじゃぁ、そんなAにお礼。」
信号で止まった隙にチュッてする。
「もぉ〜。」
って口調は怒ってても嬉しそうなAが、『お返し』って俺の頬にチュッとした。
・・・少し離れた駐車場に車を停めて、歩いて店まで向かう。
「翔くん！ここのケーキ美味しそう！」
通り沿いのケーキ屋の前で足を止めて、ガラス越しにショーケースの中のケーキをキラキラした目で見てる。
「帰りに買ってこうか？」
「いいの？！」
パッと顔が明るくなって、本当に嬉しそう。
「うん。毎日、プリン食べさせる約束だしね？今日は奮発してケーキにしよ？」
「うん！」
今にもスキップしそうな勢いのAが、すっげぇ可愛いくて。
ケーキひとつで、子供みたいにこんなに喜んでくれるAが愛おしくて。
俺が嫁さんにしたいって思った相手は、間違ってなかったなってしみじみ思った。
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作者名：しおなな
| 作成日時：2013年7月29日 22時
