２４６：涙のキス ページ41
式の参列者は既に式場の中で。
「じゃぁ、俺は先に行ってるから。ちゃんと俺の所に歩いて来てよ？」
「翔くん以外のどこに行くのよ。」
「はは。そうだな。」
そう言って私の頬にキスをするとスタッフさんに誘導されて先に式場に足を踏み入れた翔くん。
椅子に座らされて俯き、その時を待っていると視線の先に黒い革靴が見えて、パッと顔を上げると優しく微笑むお父さん。
「やっぱり…その姿を見るとお前を嫁に出すって実感するよ。」
「な、何言ってるの？私もうとっくに翔くんのお嫁さんよ？」
「…そう…だけどな。」
寂しそうに笑うお父さんに目頭が熱くなる。
お父さんは娘である私を、お母さんも雅紀も呆れるくらい可愛いがってくれた。
お父さんに怒られた事なんて一度もない。
その分お母さんはすごく怖かったけど。
「新婦様、お父様、お時間です。」
介添さんが私を立たせてくれて、さっきまで翔くんの腕に添えていた手をお父さんの腕に添える。
小さい頃はよくお父さんと手を繋いで歩いた。
お父さんの右手は雅紀、左手は私って決まってた。
大きな扉の前に立つとお父さんが、
「お前も、雅紀も…いつまでも俺と母さんの可愛い子供だ。」
って震える声で言ったから、やっぱり涙が堪えきれなかった。
式が始まる前からこれ以上泣く訳にはいかないと必死に堪える。
「新婦様？いいんですよ？涙我慢しなくても。」
って介添さんが優しく微笑みながら言ってくれたから、扉が開いても涙を止める事ができずにお父さんと翔くんの所まで歩いた。
私の顔を見た翔くんは、一瞬びっくりした顔を私に向けたけど、優しく微笑んで私の手をそっと握ってくれた。
式の間中、涙が止まる事はなくて…
向かい合ってベールを上げた翔くんが、私の涙を親指で拭ってくれて…
見上げた翔くんが、私の全部を受け止めてくれる様に本当に優しく微笑んくれるから、また涙が溢れて…
頬に伝う涙をチュッてキスで拭ってくれて…
それが誓いのキスだと思ったのに…
私の腰に手を回し引き寄せた翔くんは宣言通りに、唇を私の唇に強く押し付けた。
唇が少し離れる感覚がして、終わりだと思うと角度を変えてまた強く押し付ける。
多分、時間にして１分近く…１分以上かも。
友達の結婚式に何回も出てるけど、普通は軽いチュッて感じでしょ？
びっくりしてたら涙が止まった。
やっとの事で唇を離した翔くんはしてやったりの表情で。
その後の退場は恥ずかしくて参列者の顔は見れなかった。
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作者名：しおなな
| 作成日時：2013年7月29日 22時
