２１０：有給休暇 〜S〜 ページ5
「これでよし！今日もカッコいい！」
って玄関先でネクタイを直してくれる。
いつからか、玄関を出る前にAが俺のネクタイをチェックするのが日課になっていて。
「ありがと。さて、今週も頑張りますか？」
左手を差し出しすと、嬉しそうに俺の手を握るAに『いってきます』のキスをする。
『いってきます』って言っても、同じ所に出勤するわけだけど。
玄関を出て、鍵を閉め手を繋いだまま歩いて駅に向かう。
「あ、A？そう言えばさ？」
「うん？」
「１２月２４日、有給申請しといてよ。」
「え？」
「２３日から泊まりで出かけようと思ってさ。」
「イブに有給なんて、皆に恨まれそうね？」
苦笑しながら言うAに、
「誕生日だし、大目に見てくれんだろ？」
って言うと眉を下げてちょっと困った様に笑った。
「そっかな？」
「うん。３０歳の記念すべきバースデーだぞ？」
「ふふふ、そっか。」
それだけじゃなくて、Aにとっても俺にとっても忘れられない３０歳の誕生日になるはず。
「そういえばさ？指輪のサイズって色々あんだってね？」
さりげなく…
そう…さりげなく聞く。
「ん？」
「俺、そういうの疎くてさ？妹がピンキーリングっての？欲しいって…。」
「ふふ。仲良い兄妹ね？」
よしよし、怪しまれてないぞ。
「んでさ？Aのサイズっていくつなの？」
「小指？」
「う〜ん…全部？」
「ピンキーリングなのに全部必要？」
あ…やべぇ…
怪しまれて…る…？
よし！作戦第二段階。
「あ、それならさ？週末買い物付き合って？俺、女の子の好みわからないし。」
「うん。いいよ？」
にこって笑って言ってくれた。
あわよくばAの好みも知りたい所。
とりあえず婚約指輪だけだけどさ？
A好みのを買いたいしさ。
「どこに行くの？お店決まってる？」
「ん…うん。篤斗の彼女いる店。」
「ジュエリーショップ勤務なの？」
「うん。色々融通してくれるって…。」
「そ。」
ふんわり笑って言ったA。
実は篤斗には話しを通してあって、上手い具合にAのサイズなんかを、さりげなく聞き出してもらうのを手伝ってもらう。
もちろん、必然的に指輪はそこで買う事になるんだけど…。
本当は色々な店を見て回りたかったけど、時間も無いし。
同棲している今は、週末の度にひとりで出かけるなんてできないから。
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作者名：しおなな
| 作成日時：2013年7月29日 22時
