２４３：貴重な女の子 〜S〜 ページ38
泣いてる訳ではない…
泣きそうになるのを堪えている。
俺にはわかる。
俺と自分がつり合ってないって思ってるAには尚更、母親の冗談が冗談に通じてない。
きっと母親が自分は俺に相応しくはないって思ってる…
ってAは感じてる。
「母さん、程々にしないか。」
見るに見兼ねて親父が口を出す。
「A？大丈夫。冗談だから。な？気にすんな。」
必死に涙を堪えて頷くA。
「え？私、何かマズイ事『言ったわ！』」
怒鳴った俺を目だけで窘める親父。
「Aには俺の家の事詳しく話してなくて。それは俺が悪いんだけど。Aが引け目を感じてて。」
「まぁ！そんな事ないのよ？ご存知でしょうけど、翔はこんな男でしょ？母親としては一生独身って覚悟してたの。」
酷くねぇか？その言われ様。
「そんな息子と結婚してくれる貴重な女の子に反対なんてしないわよ？ただね？同じ女として、こんな男が旦那でいいかもう一度よく考えた方がいい『わけねぇだろ！』」
ふざけんなよ、マジで。
「とにかく、２５日に入籍する。その後の事はまた連絡するから。」
「あぁ。」
頷く親父の隣でまだ何か言いたそうな母さん。
「何だよ。」
一応聞いてやろうじゃねぇの。
「Aさんって美人よねぇ。やっぱり翔にはもったいないわ〜。」
今更かよ…
天然具合は雅紀くんと同等だ。
こんなんでよく教授が務まってるよな。
「そうだよ。Aは可愛いの。ちゃんと大事にしてるんでご心配なく。」
さて、もういいだろう。
早く帰ってAとイチャイチャで仲良ししよ。
「翔。」
再度、立ち上がろうとした俺を呼び止める親父。
まだ、何かあるんかよ。
「何？」
「よそ様の大事なお嬢さんを頂くんだ。その事をちゃんと頭に入れとけ。」
「…あぁ。」
わかってる…
わかってるよ…。
「ねぇ、Aさん？私ね？ケーキ買って来たのよ？食べて行かない？」
俺と親父が真面目に話してる時にケーキって…
あり得ねぇだろ。
Aは何も言ってないのに、サッと立ち上がち部屋を出て行く。
眉を下げて困った顔で俺を見上げるから、
「付き合ってやって。」
って言うとふわっと笑って頷く。
「大丈夫。Aはこんなに可愛いんだし。誰も文句言わないよ。」
頭をポンポンってしてやると、今度は嬉しそうな笑顔を俺にくれる。
その笑顔が俺とってはすごい価値があるって、Aは知ってるのかな？
正面を向くと親父が満足気に笑ってた。
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作者名：しおなな
| 作成日時：2013年7月29日 22時
