２４０：生きがい 〜S〜 ページ35
この場に残された俺は気まずくて俯くだけ。
「ま、まぁ…それだけ仲がいいなら孫もすぐか？なぁ？雅紀？」
あぁ…
お父さんにも気を使われてるよ…。
「すぐのすぐ。ハネムーンベビーだよ。」
「はは。そりゃあ楽しみだ。」
少しワザとらしい親子の会話を聞く。
「翔ちゃん？式は？」
「６月に予定してます。」
「ジューンブライド？本当に翔ちゃんそういうのこだわるよね？」
「いや、まぁそれもあるけど…今から準備するとその位になるかと。」
「そうだろうな。」
お父さんは納得してくれたみたいで頷いてくれた。
「後日、僕の両親と再度ご挨拶に参りますので。」
「いや、そういう堅苦しいのはあれだし、顔合わせの食事会みたいのでどうだろうか？そちらのご両親の意見も聞いて決めたらいい。」
「はい。決まり次第またご連絡致します。」
頷くお父さんに満足そうに笑う雅紀くん。
「雅紀！開けて！」
ドアの向こう側でAが大声で叫んでる。
雅紀くんが立ち上がりドアを開けると重箱を抱えたA。
あっ！って思って咄嗟に立ち上がった。
「この位大丈夫だよ、翔ちゃん。」
「でも重そうだし。」
うちではそんな重たい物をAには持たせない。
「翔ちゃん？たかがおせちの重箱でしょ？どんだけ甘やかすのよ。」
呆れた視線を俺に向けてため息の雅紀くん。
「雅紀！ビール運んで。」
重箱をテーブルに置いたAが雅紀くんにそう言うから、
「俺も手伝うよ。」
ってすかさず言う。
「翔くんはいいの。座ってて？」
って微笑んで言うAが雅紀くんと共に部屋を出て行った。
あぁ、お父さんと二人っきりだ…
戸惑いながらゆっくり腰を下ろす。
「大事にしてくれてるのは嬉しいが、女房を甘やかすと後で自分が大変だぞ？ははは。」
「大丈夫です。甘えられるのが僕の生きがいみたいなモノなので。」
キッパリ言った俺に少しびっくりしたお父さんだったけど。
「そうか。それじゃあ尻に敷かれる覚悟はできてるって事か。」
「はい。それの方が家庭円満でいられると思うので。」
「ははは。若いのによくわかってるじゃないか。」
大笑いするお父さん。
「ケンカもすると思うんです。」
俺が静かに話し出すと笑うのをやめて俺を見る。
「けど、それって夫婦としてずっと一緒にいる為に必要なんじゃないかって思うんです。ケンカをしてこちらに家出しても必ず迎えに来ますので。」
「あぁ。返品不可だ。」
笑って雅紀くんと同じ事を言った。
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作者名：しおなな
| 作成日時：2013年7月29日 22時
