２３９：待った甲斐 ページ34
お父さんの震えてる声を聞いて、また涙がこみ上げる。
「A？そんなに泣いても今日はさすがの翔ちゃんでも抱っこできないよ？」
って雅紀がニヤニヤして言う。
「ちょ！雅紀くん！」
隣ではアタフタ焦ってる翔くん。
「雅紀、なになに〜？『抱っこ』って？」
「うん？Aはいっつも翔ちゃんに抱っこされてんの。抱っこで『あ〜ん』ってしてる。」
「雅紀！『雅紀くん！』」
私と翔くんの焦る声が重なる。
「へぇー、そんな甘やかされてんの？」
感心するお母さんの声。
「うん。翔ちゃんがね？すっげぇA甘やかす。移動すんのも翔ちゃんのお姫様抱っこ。」
「いいわね〜A？こんなイケメンに甘やかされて。」
って雅紀によくにたニカって笑顔を私に向ける。
私と翔くんは二人の事を平然と暴露されて、ただただ唖然となって言葉も出ない。
怖くてお父さんの方を向けない。
それは翔くんも同じ様でワザとらしくお父さんから視線をずらす。
その後も雅紀の暴露は続き…
「ぅんん。」
お父さんの方が気を使って咳払いする始末。
「あ！そうそう。ご飯にしましょ。」
やっと暴露大会が終わってホッとする。
「Aも手伝いなさい？」
って席を立ったお母さんの後をついてキッチンに向かう。
この場に翔くんを残すのは可哀想だけど、雅紀がいるから…
多分平気だろう…
すごい不安だけど…。
キッチンに入って、ダイニングテーブルにのるおせちのお重を運ぼうとしたら、背後からお母さんが、
「雅紀に感謝なさいね？昨日の夜から櫻井さんがどんだけあんたの事を思ってるかって、散々お父さんに話してたんだから。」
って小皿や箸を用意しながら言う。
「まぁ、でも？そんな事をしなくてもお父さんはあの日からとっくに娘取られる覚悟はできてたみたいだけど。」
「…うん。」
「優しくてあんなイケメンが旦那なんて、３０まで待った甲斐があったわね？」
ってやっぱり最後はお母さんらしく冗談混じりに言った。
「でしょ？」
「さすが私の娘。お目が高いわ。」
『ははは』って笑ったお母さんは私から背を向けて、IHを操作して鍋の中身を確認しながら、
「幸せになんなさい。親が願うのはいつだって子供の幸せなんだから。」
って小さな声で言ったお母さんの背中は、少しだけ寂しそうだった。
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作者名：しおなな
| 作成日時：2013年7月29日 22時
