２３５：神様に 〜S〜 ページ30
冬の寒空の下、人だかりの中をしっかりと握ったAの手をポケットに入れながら歩く。
「やっぱりすごい人だね…。」
お賽銭を入れるのに並ぶ人の列に俺らも並ぶ。
「あぁ。」
「でもね？今年は特別な年だから、神様に会いたかったんだ。」
「ん？」
「大好きな人と結婚しますって報告しないと。」
にっこり笑って、そんな事言うAが可愛いくて。
「だな。あと…ありがとうございますもか？」
「うん。」
やっぱりにっこり笑って頷くAの耳元で『食べちゃいたいくらいかわい』って囁いたら、真っ赤な顔をして俺を見上げた。
ふふ、可愛いなぁ。
「もぉ//」
Aが可愛いくて自然に顔が崩れる俺に呆れたのか、怒る気も失せたらしい。
「翔くんは、お願い事するの？」
「うん？俺は特にないかな？一番叶えたかった願いはもうすぐ叶うし。」
「ん？」
「Aを全てにおいて俺だけのAにする事。」
「…。」
「やっぱり神様にはお願いじゃなくて『ありがとう』って言ってこよ？」
「うん。」
ポケット中の俺の手をギュッと握る。
「あ、やっぱ俺は明日の挨拶上手くできるようにお願いしとこ。」
「ふふふ。そっか。ね？緊張するの？」
「あったりまえじゃん！口から心臓飛び出しそうなくらい緊張すると思う。」
「ふふふ。頑張って。」
どこか他人事の様に言うAを、ちょっと恨めしく思ったけど、この気持ちはきっと女の子には理解できないんだろうな。
「雅紀も待ってるって。」
「雅紀くんの場合、ただの冷やかしっぽいけどね。」
「それもあるけど、『翔ちゃんの援護をする』って張り切ってたよ。」
『ふふふ』って笑いながら言うA。
「んじゃ、とりあえず有難いのかな？」
「うん。とりあえずね？」
顔を見合わせて笑い合う。
これからの生活、式の事、子供の事…
Aとの将来の事を話していると時間は、あっという間に過ぎてく…。
「もうすぐだね？」
そう言ったAが俺のポケットから手を出す。
「なんで出しちゃうの？」
「お賽銭出さないと。」
Aはバックから財布を取り出して、５円玉を手のひらに乗せて俺に見せる。
「やっぱり『ご縁がありますように』かな？」
「ダメ！もうAには『ご縁』なんていらないでしょ？」
「『ご縁』ってそれだけじゃないじゃん。」
「ダメ！絶対ダメ！」
キツくそう言った俺にため息を吐いて１００円玉と交換した。
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作者名：しおなな
| 作成日時：2013年7月29日 22時
